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音楽の散歩道
天才の「母は強し」
2008年5月10日

おがわ・ひろこ

小川弘子

神戸大学教育学部音楽科卒。同
大学院修士課程修了。専門はピ
アノ。歌曲、オペラアリアなど
声楽の伴奏を得意とする。97年
に渡米し教会、コミュニティー
団体などで伴奏している。

 子育てをした経験のない私には、その大変さは
本当のところではわかりようもありませんが、そ
の真っ最中の友達の話、世の子供が引き起こす重
大事件、きびしい教育環境などを目に耳にするた
びに、ため息が出そうです。「元気でまっとうな
人間にさえなってくれれば」という声もよく聞き
ます。そのように育てることだけでも、実に大変
なのでしょう。

 しかし、世の中には、天才と呼ばれる子供を1
人ではなく2人、3人と生んで育てたお母さんが
います。もちろん、子供たちに天性の才能があっ
たからでしょうが、それだけではないはず。Mi
doriと弟の龍という神童2人を育てた五嶋節
さん、長男・博は日本画家、次男・明は作曲家、
長女・真理子はヴァイオリニストという千住文子
さん、7人の子供のうち次女・ミョンファはチェ
ロ、三女・キョンファはヴァイオリン、三男・ミ
ュンフンは指揮者兼ピアニストというチョン・ト
リオの母である李元淑(イ・ウォンスク)さん。
世界的な活躍をする子供たちを育てた母親に共通
することは何なのか。3人の著作を読んでみまし
た。

 

 「母と神童 五嶋節物語」、「千住家の教育白書」、「世界がおまえた
ちの舞台だ チョン・ファミリー物語」いずれもその母たちのすさまじい
エネルギーが行間からほとばしり出るようで、一気に読めてしまうほどで
す。何がすごいと言って、とにかく子供たちに向かうその本気の姿勢に、
読んでいるだけでたじたじになりそうなくらいなのです。娘が3歳半の時
から、息子にいたっては2歳半から、自ら『鬼』だったいうほど厳しいヴ
ァイオリンのレッスンをし続け、時には叩いたり蹴飛ばしたりということ
もあったというスパルタ式の五嶋さん、自らはまったく音楽の素人であり
ながら、娘のレッスンに一緒に行っては先生の注意事項を一言も聞き漏ら
さず楽譜に書き込み、家での練習の際には何度でも言って聞かせたという
千住さん、どんなに生活が苦しくてもどんなに状況が絶望的に思われると
きでも、子供たちのために不可能を可能にする方法を考え出して猪突猛進
するゴッドマザーのような李さん。子供たちは、そんな母親の必死な姿か
ら感じとり、学び取り、母への全幅の信頼と愛情を深めていくのです。

 もうひとつ、この3人に共通しているのは、子供の力を信じる心です。
「この子ならできる」、「あれほど練習したのだから、絶対にうまくい
く」という気持ちが、子供たちにも伝わり、それが安心感となり自信へと
つながっていくのです。自分が音楽の専門家であってもなくても、その子
供たちの成長と上達、時には挫折をも最もよく感じることができるのは母
である自分なのだ、との確信があるのでしょう。信念を持って生きる女性
の物語としても、興味深いものです。言い古された言葉ではありますが、
『母は強し』というのを改めてつくづく感じさせられました。

 

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