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音楽の散歩道
連弾のひそかな楽しみ
2008年6月20日

おがわ・ひろこ

小川弘子

神戸大学教育学部音楽科卒。同
大学院修士課程修了。専門はピ
アノ。歌曲、オペラアリアなど
声楽の伴奏を得意とする。97年
に渡米し教会、コミュニティー
団体などで伴奏している。

 ピアノという楽器がヨーロッパの宮廷から市民
社会へと広がりつつあった19世紀の半ば、経済
的に少しでも余裕のある家庭では、娘にピアノを
習わせることが非常にはやりました。かといっ
て、大抵の親たちは、娘を専門家にしようと考え
ていたのではなく、ただ、居間にピアノがあり、
きれいなドレスを着た娘が優雅な姿で耳ざわりの
よい曲を弾くという生活にあこがれたのです。そ
のような背景から、この時代には「乙女の祈り」
をはじめとする、高度なテクニックを必要とせ
ず、かつ美しいメロディーをもつ曲が大流行し、
また1台のピアノを二人で並んで座って弾く連弾
も大いにもてはやされました。

 それ以前にもピアノ連弾曲がなかったわけでは
ありません。モーツァルトも10曲足らずですが
作品を残していますし、シューベルトの作品は技
術的にも大変難しいものも数多くあります。しか
し、19世紀後半にはやったのは、そういう「芸
術的」なものではなく、比較的簡単に弾け、弾く
方も聴く方も肩肘の張らないものでした。しか
も、音楽としての楽しみだけではなく、もしかし

 

たら異性どうしの2人が、肩が触れ合うくらいの距離で座り、2人の手が
時々交差したり、時には重なり合ったり、指と指が一瞬擦れあったりする
という、うれしはずかしのオマケまで付いているのです。意外に感じるか
もしれませんが、ブラームスはこの流行をうまくとらえ、有名な「ハンガ
リー舞曲」をはじめとする多くの連弾曲を書いています。楽譜がよく売れ
たおかげで、ふところも潤ったようです。

 フォーレの組曲「ドリー」、ビゼーの「子供の遊び」などは、曲名から
しても、その傾向がよく表れており、「ソナタ」なんていうような難しそ
うで退屈そうなものより、ずっと楽しそうですし、実際に今でもそれらの
方が演奏される機会も多いのです。もう少し高度なものを弾きたい人のた
めには、オーケストラ曲のピアノ連弾用編曲というのもありますし、もっ
と簡単なものをという人には、高音部が簡単で低音部がやや難しい、生徒
と先生用のものもあります。これなら、簡単なパートは片手だけで弾ける
のに、全体の音としてはちゃんとした曲になっている、というわけです。

 時代がかわっても、オマケの部分の楽しさは変わることがありません。
数年前から日本でブームになっている大人のためのピアノ教室。仕事帰り
にそこに通うオジサマたちの中には、純粋に上達したいという人に混じっ
て、若くてかわいい先生と連弾をするのが、ハラハラ、どきどき、緊張す
るような、ときめくような、それを楽しみにしている人もいるようです。
ちなみに、連弾は常に2人だけでやるものではなく、3人用の曲もありま
す。しかも何かの編曲ではなく、純粋に六手連弾のための曲です。ラフマ
ニノフが知り合いの3姉妹のために作曲しました。既存の曲を六手連弾用
に編曲したものもあります。狭くて大変でしょうけれど、憧れの異性2人
の間に挟まれて弾くのなら、それも気にならないのかもしれません。連弾
の楽しみは、昔から音楽だけではないのですから。

 

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