3週間前に始まったムバラク大統領の即時退陣を求めるデモは日増しに参加者が増え、2月8日の集会では過去最大の数十万人が参加し、結果、ムバラク大統領は退陣した。
 ムバラク大統領は、約30年にわたり独裁体制を貫き、政治家と癒着した一部の特権階級だけが甘い汁を吸い、国民の大半は貧困に苦しんだ。今回のデモは、チェニジアの青年の死をきっかけに、政権の腐敗と圧制に反発した若者がネットの呼びかけに応じて始まった。
 エジプトは中東最大の人口8000万人以上を擁し、海運の大動脈であるスエズ運河を抱える。米国をはじめとする主要国の中東戦略上、重要拠点である。また、米国から年額20億ドルの軍事・経済援助を受ける親米国である。しかし、欧米諸国は今回のデモをきっかけにエジプトがイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団の躍進によって、1979年の革命後にイスラム政権が発足したイランと同じ道をたどるのではないかと強く警戒している。

 ムバラク大統領が即時退陣したため、現憲法では60日以内に大統領選を実施しなければならない。
 王制が崩壊した1952年以降、軍主導の強権体制が続いてきたエジプトでは、これまで開かれた選挙が行われておらず、このままでは最大勢力のイスラム原理主義組織が政権を握る可能性が大きい。
 一党独裁になれば、新たな国内の火種になるだろう。異なる意見を持った政党が幅広く参加し、大いに議論する必要がある。

 デモの高揚と対照的に、スレイマン副大統領は観光収入の損失は10億ドルに達すると述べた。エジプトの観光産業は、GDP構成のうち11%を占める重要な外貨収入源の一つだが、カイロ郊外ギザのピラミッド周辺の観光地は人影がほとんどなく、壊滅状態だ。国内の混乱が長引けば、収入を失った人々の不満が膨れ上がり、さらに治安が悪化するかもしれない。
 エジプト国民は、体制破壊の先に何を望んでいるのだろうか。民主化への長い道のりは始まったばかりだ。【下井庸子】





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