悪語「…かな」
日本放送協会(NHK)は、ここ数年間についていえば、かなり優れたドキュメンタリーを制作していると思う。大東亜・太平洋戦争の真実に迫ろうとするいくつかの番組には特に感心させられたものだ。
そのNHKが一方で日本語を破壊しつづけている。先頭に立って日本語の劣化を進めている。格別にひどい番組は「みんなでニホンGO!」だ。「日本語に正解はない。だから日本語はおもしろい」というサブタイトルからすでにそのことが察せられるのだが、この番組でNHKは「正しい日本語の使い手」としての自己を完全に否定しているのだ。
「言葉おじさん」と自称している人物が、NHKの番組にしばしば登場する。ところが、この言葉の解説者自身が大問題なのだ。口癖として、耳障りな「…かな」を連発するからだ。自分が言っていることに自信がない一般の日本人が、聞き手に媚びるために使うようになったと考えられるこの「…かな」は、NHKがいますぐに放送から駆逐しなければならない数多くの〈問題語〉の一つだというのに。
「かな」というのは、つい近年までは、「本当かな?」「そうだったかな?」などというように疑念や疑問、不確実さを表すためだけに使われてきた。それが本来の使い方なのだ。この由緒正しい使い方を日本国民のために守る義務が、視聴=受信料を徴収しているNHKにはある。
だから、たとえば、ドラマの中に「あんな亡くなり方をしたけども、あの方はあれで幸せだったのかな、と思えば、いくらか気が楽になります」というような、否定と肯定を混在させた、歪んだ台詞があれば、これをNHKは認めてはならない。「…けれども、あの方はあれで実は幸せだったのだろうな(幸せだったのではないか)、と思えば…」というように改めることができないかを脚本家と話し合うべきなのだ。せめて、後者が本来の正しい日本語だということをNHKは自ら学習しなおすべきだ。
論説員、編集者、記者、アナウンサーたちの日本語再教育をNHKはただちに始めなければならない。NHKが使っている日本語は間違いだらけなのだから。日本語に〈正解〉はあるのだ。【江口 敦】