八百長。スポーツの試合でのあるまじき行為で、その語源が相撲であることはあまり知られていない。日本中を騒がせているこの問題が起こり、日本相撲協会は存亡の危機に立たされている。
 これまで、いかさま相撲を暴こうと、週刊誌が報道、元力士は証言するなどした。協会はその都度、全面否定し潔白を証明、民事裁判で勝訴してきたが、疑惑が残ったままだった。だが、とうとう動かぬ証拠が出てしまい残念に思う。
 300有余年の長きにわたって頑に日本の伝統を守って来た男たち。文化の伝承者には、自然と敬意を払うのだが、悪しき行為まで受け継いでもらっては、その心は薄れていく。真剣勝負を信じていたファンはいたたまれないことだろう。過去の横綱同士の名勝負も色あせてしまった。
 渦中の力士たちは、携帯電話のEメールでやりとりしたが、テクノロジーが仇となり、消去したはずの通信記録が復元され初の物証となった。その内容は、生々しい。力士は実名、数十万円で売買される星の数々、振込先の銀行口座の番号、そして最も驚くのが取り組み。「真っすぐ当たって」「途中で投げる」「こう倒れる」などと、立ち合いから決まり 手までの勝敗を打ち合わせ、文面=筋書き通りに事は進んだ。隠語がまったく見られないため、罪悪感はなく、当たり前のように常習的に行われていたのがうかがえる。
 不正が横行していると指摘されるが、一握りの力士の悪行であってほしいと願う。横綱白鵬が肝に銘じる「心技体」。相撲道では、どれ1つ欠けてもだめだという。技、体は備わったものの、不正者は入門した時の初心を忘れてしまったのだろう。刑事事件性がないことがせめてもの救いだ。
 ここ数年、不祥事が後を絶たず、陳謝の連続だった協会。まさに、何度も「土俵際」まで追いつめられて来た。今回は、過去の例と次元が違い根幹を揺るがす大問題だが、土俵には徳俵という劣勢力士の味方となる個所がある。角界は今、そこにいる。踏ん張って巻き返さなければならない。【永田 潤】

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