羅府新報社が入居している鹿島ビルの隣りに、リトル東京で最初に誕生したショッピングモール「ウエラーコート」がある。完成当初、その中央広場で横綱北の湖(当時)が見事な土俵入りを披露し、好角家を熱狂させたものだ。
大相撲はこれまで、何度かロサンゼルス巡業を行って、相撲ファンは着実に増加。しかし、モンゴルをはじめとした外国人関取が本場所で活躍しているのに、アメリカ本土からの強い関取はなかなか誕生しない。日本人の血を引くブラジル出身の魁聖が新入幕ながら初日から9連勝して注目を浴びたように、いずれ米本土からも三役を目指せる力士が生まれるだろう。
当地にも角界出身の人は何人かいて、南加県人会協議会顧問を務めた川島積夫さんもその1人。兄弟子だった吉葉山の豪快な一升瓶ラッパ飲み、三段目のときに力道山と対戦した恐怖の体験談など、おもしろ可笑しく語ってくれた日々を思い出す。
相撲を楽しむ人びとが世界に広がってきているのに、本家本元の日本相撲協会は暴行事件、大麻所持、野球賭博、八百長問題と大揺れに揺れた。春場所に続き夏場所も中止し、技量審査場所という耳慣れない形で催行し、再発防止に取り組んだ。
放駒理事長(元大関魁傑)は千秋楽を終え、「みんなが、しっかりといい相撲を取ってくれた」との手応えを感じ、所管の文部科学省に7月の名古屋場所開催方針を報告するという。次の場所開催もままならないのなら、天皇賜杯もテレビ中継もなく、懸賞もかからない変則開催の技量審査場所に「なんだかピンとこない」ともらしていた横綱白鵬ならずとも、ファンはそっぽを向いてしまうだろう。
全容解明、処分、再発防止策を本場所再開の条件としてきた理事長は「いろいろなことをやってきたが、きちんとできたと思う」として、本場所開催実現に向け意気込む。正常な本場所に戻し、誰でも相撲見物を楽しめる手短かな所で、またロサンゼルス場所を開催してほしい。
ウエラーコートは現在売りに出されているけれど、広場そのものは存続して横綱の土俵入りを待っている。【石原 嵩】