「あって当たり前」と思っていたことが、突然自分から奪われた時、人は、悲しみで泣き叫んだり、怒り狂ったり、ふさぎ込んでしまったりするだろう。しかし、一体何人の人が、その現実を受け止め、毎日笑顔でいられるだろうか。
サウスパサデナに住む18歳の少年は、体を動かすための神経系(運動ニューロン)が変性し、全身の筋肉が動かなくなる進行性の難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と闘っている。昨年10月の診断以来、日々進行する筋力の衰えを目の当たりにしながらも、彼は、毎日とびきりの笑顔で過ごしている。
全米ALS協会によると、現在米国には約3万人のALS患者がいる。診断される人のほとんどが40代から70代で、現在、治療薬はない。
この少年の場合、左腕の震えから始まり、左肩、口、のど、首、右肩、右腕の筋力に進行。半年の間に、左腕は完全に機能を失い、のどの筋力の衰えから食事を飲み込むことができなくなった。ここ一カ月の間で言葉を発することも難しくなり、最近では右腕にも震えが出始めた。
「あって当たり前」と思っていた体の機能が、一つ、また一つと失われていく事実を、彼は一体どう受け止めているのか。彼の気持ちを理解することは誰にもできない。しかし、それでも彼は笑顔で過ごす。
「生まれた時からそう思っていたけど、彼は本当に心が純粋で、神様のような子なんです」
彼に初めて会った時、母親がそう言っていた理由がよく分かった。彼が見せる純粋な笑顔は、人を瞬時に引きつけ、笑顔をもたらせ、幸せにする力がある。
息子の笑顔がどこから来るものなのか、両親にも分からないと言うが、父親はこう想像する。
「多分、母親を悲しませたくないのだと思う。自分が笑えば、母親も笑ってくれる。母親が笑ってくれれば、自分も安心できる」
その笑顔は、彼の母親への愛情と優しさであり、今を生きる大切さと、当たり前のものに感謝する心を教えてくれているのかもしれない。【中村良子】