日本の花といえば、筆頭に挙げられるのが国花の1つでもある桜に違いない。桜前線が北上しもうすぐ、列島を桜一色に染め、春の訪れを告げる。この時期は入学・入社式と重なるため、めでたく、思い出の1ページにまさに花を添えてくれる。
一斉に咲くのがいい。一面に咲き乱れる山桜を見たことがあるが、「きれい」だけでは表現できず、見る者を圧倒していた。また、人々を引き寄せる力も備える。それが花見だ。
満開の木の下で、歌って踊りながらの花見酒、花見団子は楽しい。夜桜見物もまた違った趣きを醸し出す。お琴で「さくらさくら」を奏でながら、桜の木の下で茶席を設けるのも風流で、吟舞なども絵になる。
猛暑や厳冬にもじっと耐え、ぽかぽか陽気に誘われ一気に開花し謳歌するが、花盛りは1週間ばかりと極めて短く、風雨に遭えば散ってしまう。花びらが、ひらひらと舞い落ちる光景は、風情を感じると同時に、哀愁に似た儚さもあるため、さまざまな観賞ができておもしろい。
ここアメリカでも、日本が何百年にわたり育んだ桜の文化を継承しようとしている。日系人が中心となり、日本町や公園、寺、学校、公民館、自宅の庭などに植え、各所では桜まつりが開かれる。姉妹都市提携の記念にも植樹式が開かれ、友好、平和の象徴になっている。
リトル東京には今、本家日本よりも一足早く桜が咲いている。さまざまな人種が入り混じることで潤う町だが、日本文化の稀薄化を危惧する文化人や有識者もいて、桜の木を大きく育てることは町のアイデンティティーを持続する一助となるだろう。
アメリカ随一の桜の名所は、東京から贈られ今年で100周年になる首都ワシントンの河畔である。実際に見たことはないが、あれほど美しく、そしてアメリカ人に敬意を示されるまで、ここ南カリフォルニアでもみんなの努力で大事に育てたい。
老翁が愛犬の「ここ掘れワンワン」などのアドバイスに従い紆余曲折の末、桜の木とともに運気を上げる民話「花咲か爺さん」がある。われわれもこの爺さんのように桜を満開にさせ、地域社会の発展につなげれればいい。【永田 潤】