第二次大戦が終了してしばらく、私がまだ小中学生だったころ、映画は私たちにとってほぼ唯一の贅沢な娯楽だった。
映画のスクリーンに人生を重ね、笑い、泣き、そして銀幕の俳優さんに憧れたものだった。最近は3D映画も登場し、臨場感あふれる体験も可能だが、私にとっては昔の白黒映画のほうが胸に迫るものがある。
私にとって、懐かしい青春映画のひとつが『青い山脈』だ。
石坂洋次郎の小説を映画化したこの作品は、若い男女をさわやかに描いた青春ドラマであり、日本に戦後の民主主義と男女交際のあり方を啓発させた作品だったといえるのではないだろうか。
これまでに5回、映画化されたが、中でも最初の作品は社会に強烈な印象を与えた。原節子、池部良、杉葉子など、そうそうたる役者が登場し、今井正監督によるものだ。また、このとき映画の主題歌として登場したのが「♪若く明るい歌声に~」ではじまる唄で、たちまち日本中の人々が口ずさむ爆発的ヒット曲となった。
後日談だが、寺沢新子役だった杉葉子さん(現在ロサンゼルス在住)から私が直接伺った話によると、1999年7月に東京で「映画『青い山脈』50年を祝う会」が開催された折、時の首相であった小渕恵三氏が来賓として出席し、当時、「国旗・国歌法」の審議中で与野党が賛否両論かまびすしい時で、祝辞の中で小渕首相は「今、国会で『君が代』が問題になっていますが、『青い山脈』を皆で合唱しようというのであれば、誰の反対もないでしょう」とスピーチしたそうだ。
ところで、上記の映画『青い山脈』をはじめ、多くの名作を残した今井正監督の生誕百年記念上映会が東京・銀座シネパトスで目下開催中であり、4月8日には『青い山脈(正、続)』の上映にあわせて杉葉子さんのトークイベントが催されるそうだ。
杉さんは現在、当地ロサンゼルスで日米文化交流のため活動され、2005年度の文化交流使にも任命されている。このトークイベントでも古きよき時代の懐かしい話にあわせ、日本文化の素晴らしさ、文化交流の大切さなど語ってくれることだろう。
【河合将介】