「アシュリーがハロウィンを好きなのは、キャンディが理由だと思っていた。でも、違った。バットマン、パワーレンジャー、ゾロ…。アシュリーにとって、一年でこの日だけが、本来の自分の姿になれる日だったこと。この日だけは、男の格好をしても、誰もバカにしない日であったのが理由だったのだと…」
涙ながらにそう語ったのは、マーシャ・アイズミさん。自身の子供をはじめ、トランスジェンダー(体の性と心の性の不一致)の理解を広めようと講演会を開いた。日本からアダプトした一人娘アシュリーが、16歳でレズビアンとして、また20歳でトランスジェンダーとしてカミングアウトし、乳房除去手術、性別と名前の法的変更に至るまでを、息子となったエイダンさんと赤裸々に語った。
「家族に恥をもたらすな」といった典型的な日系家庭に育ち、キリスト教教会に通っていたアイズミさんは、わが子のカミングアウト後、不快感から「レズビアン」「トランスジェンダー」という言葉を発することすらできなかった。
しかし、女性の体であることに苦しみ、日々いじめられ、生きる希望を失いつつあるわが子を救う一心で、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)について勉強し、親の会などで情報を集めた。
「彼らのパーソナルストーリーを聞き、彼らも私と同じ1人の人であると分かった」。トランスジェンダーはその人の性的好みやライフスタイルではなく、その人そのものであると学んだ時、「長いこと女性の体で精神的に苦しい思いをしたことだろう」と、初めてわが子の心の痛みを理解できたという。
差別や不快感は、その世界を知らないために感じるものだと身をもって学んだアイズミさん。現在は積極的にイベントなどに参加、トランスジェンダーの理解を広める努力をしている。
息子を受け入れることに時間がかかった父親タッドさんは、LGBT支援のイベントでこう述べた。「娘を愛している。でも、今はそれ以上に息子を愛している」【中村良子】