渡辺謙はいつから「ケン・ワタナベ」になったのだろう。
世界で活躍する日本人はオノ・ヨーコのようにカタカナ表記だったり、欧米風に名字と名前を逆にして呼ばれるようになることがある。
渡辺はおそらく2003年にハリウッド映画「ラストサムライ」に出演し、その演技が高く評価されてからだろう。多くの日本人俳優がハリウッドに進出する中、ケン・ワタナベほど一般の米国人に認知されている俳優はいないのではないだろうか。
先日、日本映画の祭典「LA Eiga Fest 2013」がハリウッドで行われた。クリント・イーストウッド監督のオリジナル作品を李相日監督の手によってリメークされた「許されざる者」がオープニング作品として上映され、主演の渡辺がレッドカーペットに登場した。現在は活動の拠点をロサンゼルスから日本に移したというが、再び「故郷」LAの地を踏んだ。
上映後、一般の米国人に感想を聞いてみると、「まるで本当のサムライのようだった」と渡辺のことを語る声をよく聞いた。「ラストサムライ」の印象も強いのかもしれないが、米国人にとってサムライといえば「世界のミフネ」と並び今ではケン・ワタナベの名も思い浮かぶようになってきているようだ。
筆者の周りでも米国人の男の子にとっては「サムライ=クール」らしい。サムライをまねてチャンバラごっこをするちびっ子たちの姿も時々目にする。
筆者がまだ小さかった頃、NHK大河ドラマで「独眼竜政宗」が放送された。渡辺演じる伊達政宗は、片目は眼帯で覆われており、もう片方の目だけで演技する。その目力や迫力に毎週圧倒されながらテレビに釘付けになっていたのを覚えている。
まだ幼稚園児で登場人物はおろか物語の内容すら分かっていなかったと思う。しかしブラウン管を通してでも伝わってくる渡辺の「凄み」に子供心にある種のショックを受けたことは確かだ。
演技の良し悪しなど分からぬ子供ですらそう感じたのだから、当時の渡辺謙はもうすでにケン・ワタナベだったのかもしれない。【吉田純子】