昔、「ロンパールーム」という幼児向けテレビ番組があった。私はこの番組が大好きで、毎日ほぼ欠かさず見ていた。就学前の一般の幼児たちが数名出演し、「お姉さん」と一緒に遊んだり学んだりする。音楽に合わせてギャロップ木馬にまたがって走ったり、お遊戯をした後でミルクを飲み、最後は「お姉さん」が鏡の入っていないフレームを手に持って、「鏡よ鏡よ鏡さん」とお茶の間でテレビを見ている良い子たちに語りかける。
 私はこの番組に出たくてたまらず、母に応募してくれとせがんだものだ。母は、まだ字の読めなかった私に、実家の親に宛てた葉書を差し出して、「これが応募ハガキよ。ポストに入れてきてね」とお使いにいかせた。私は首を長くして招待の連絡が来るのを待っていた。今から考えると、なかなか悪いママだ。
 同じような思い出をお持ちの(若くない)読者もおられるかもしれないが、このロンパールームが、実はアメリカの幼児番組のフォーマットを使ったものであることは案外知られていない。
 ロンパーというのはRomper、つまり「やんちゃ」という意味で、やんちゃな子供のための遊び部屋、という意味だろうか。アメリカ人の同僚に尋ねたところ、「私もロンパールームを見て育ったわ」という返事が返ってきた。日本での人気の秘訣は、恐らく、アメリカ版をそのまま放送したのではなく、日本のキャストを使い、日本の子供の好みに合わせてローカライズして制作したからだろう。逆もまた然りで、「料理の鉄人」などもローカライズして米国で好評を博した。
 クール・ジャパンは、日本のコンテンツやファッションや食文化を海外に広めようという取り組みだが、つい最近も「ドラえもん」が対米進出を果たした。日本で放映されている「ドラえもん」にスピード感を加え、音楽もアメリカ人向きに差し替え、ドラえもんはどら焼きでなくピザを食べる。日本のお茶の間で慣れ親しまれてきたアニメとは趣を異にしている。
 けれども、ドラえもんが日本生まれであることは間違いない。少しアメリカナイズされたドラえもんが、米国の子供たちに愛され、いつか大人になった時、日本人と「僕もドラえもんを見て育ったんだ」と雑談する日がくることを望んでいる。【海部優子】

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