ロサンゼルスのインターコンチネンタルホテルをはじめ、日本の17か所のホテルを経営する三好社長
ロサンゼルスのインターコンチネンタルホテルをはじめ、日本の17か所のホテルを経営する三好社長
インターコンチネンタルホテル社長
三好麻里さん

 

 数多くのビジネスオフィスが立ち並ぶロサンゼルス市センチュリーシティーでその年に活躍した女性だけに贈られる「ウーマン・オブ・アチーブメント」に日本人として初めて選ばれた女性がいる。ラグジュアリーホテル「インターコンチネンタルホテル」で社長を務める三好麻里さんだ。今年8月には住友不動産が日本で展開するホテルチェーン「ヴィラフォンテーヌ(株)」の社長にも就任し、現在、日米千人以上の従業員のトップに立つ。海を隔て米国と日本で活躍する三好社長にホテル経営について聞いた。業績不振から3年で3年連続増収増益を達成した自身の経営哲学を2回に分けてお届けする。【取材、吉田純子】


業績不振からのスタート
「人が企業を支える」

 「ホテル経営ではお客さまと従業員すべてに対して思いやりの心を持つことが重要です。まずは『Employment First』。従業員が生き生きと働けていなかったら、お客さまに最高のサービスを提供することは出来ません」。経営者の仕事はいかにして従業員のモチベーションを高められるかにかかっているという。
 三好社長がニューヨークからロサンゼルスに移ったのは2010年12月。ちょうどその時ホテルが閉鎖の危機に追い込まれる出来事が発生した。「目の前でホテルが崩壊していくのが分かるのです」。
 以前からニューヨークから通いでホテルを見ていた。ロサンゼルスには1、2週間だけ滞在し報告を聞くだけ。それが大きな間違いだった。情報がかたより、従業員の本当の声が聞けておらず、問題を見抜けなかった。「経営者としてもっともしてはいけないことをしてしまった」
 ホテル経営は業績不振の状態からのスタート。「どこからホテルを立て直そうか」。抜本的改革を始めた時、まず職場を楽しくし、上下関係をクリアにすることから着手した。ある時、従業員を集め、現場を把握してなかったことを謝った。従業員一同は度肝を抜かれた。オーナー自ら自分に間違いがあったと詫びることは米国では非常に稀。しかしそれ以降、従業員との距離感が一気に縮まり、信頼関係が生まれた。
 「やはり人間関係が一番大事。信用がないと先には進めません」。ひとりではなく、従業員一同がチームとして団結し、プロフェッショナル集団にならなければいけない。ホテルの雰囲気や、上司との関係が悪いと従業員のやる気も引き出せない。「企業は人が支えます。人が人を支え組織になっていくのです」
 ホテルは多国籍軍。さまざまな人種の客に対応するため、従業員の人種も多種多様、それは世界共通だ。「ホテルは人間のモチベーションがすべてに結びつきます。マイクロマネージメントは合わないと考えています」。ロサンゼルスに来て3年目、三好社長は開業以来の業績をあげることに成功した。


徹底して従業員と話す
問題は隠さず一緒に解決

「従業員とは積極的に話し、問題点を見つけ解決していく」と話す三好社長
「従業員とは積極的に話し、問題点を見つけ解決していく」と話す三好社長
 どっぷり現場につかることの大切さを身をもって知った。「とにかく私は積極的に従業員と話します」。ホテル業界はヒエラルキーが強く、社長と従業員がよく話す会社は非常に珍しいという。しかし触れ合いが多くなるほど、相手を知る機会も増える。「従業員には悪いことが起きたらすぐに教えてほしいと言います」。またそれを隠さない文化をつくることを徹底した。部下がひとりで悩みや問題を抱えるのではなく、自分が聞くことで一緒に解決してあげる。この心掛けを徹底したことで従業員がオープンになれたと言う。「良いことは皆で喜び、悪いことは隠さない。そのためには話しやすいボスでなければいけません」。入ってくる情報の量も違ってくるという。
 従業員の子供が大学に入学した時には「ミス三好、見て」と入学式の写真を見せてくれることもあるという。「彼らの人生の節目にも立ち合えるのはとても嬉しいこと」と三好社長は話す。「『ここで働けて娘が卒業できました』なんて聞くと、従業員の数掛ける5(1家族分)だなと思うんです。自分には大きな責任がある。『もっと彼らを幸せにしてあげないと』と思うんです」


人材育成に「武士道」を
固定観念捨て発想の転換

 業績不振で思い悩んでいた時、たまたま手にしたのが「武士道」の本。感銘を受け、人材育成にも取り入れた。日本の武士道には心に秘めた思いがある。わびさびを従業員に教え、お辞儀も教えた。相手に敬意を表す気持ちは万国共通。お辞儀は相手が遠くにいてもでき、米国流に「ハーイ」とあいさつするよりはるかに気持ちが伝わる。
 ホテルに日本人のスタッフはひとりもいないが日本人の利用客数は増えた。「日本人のお客さまには日本人のスタッフをとの固定観念を捨てたのです」。日本人のスタッフがいると日本と同じおもてなしを期待するが、できていないとがっかりする。でもすべてが米国人の中、日本のようなホスピタリティーがあると意外性が生まれる。発想の転換だ。
 またお客さまはせっかくアメリカに来ているのだからアメリカを満喫したいと思っているのではと分析。その中に少しだけ日本的な要素を加えた。朝食メニューに和食を取り入れ、納豆がでてくると「まさかここで納豆が!」とびっくりする。アメリカのホテルなのにラーメンがあると「まさかここで食べられるとは!」と驚く。サプライズを提供するのだ。【後編に続く】

三好麻里さん略歴

 東京都出身。住友不動産(株)ビル事業本部・法人営業部に勤務後、1998年より住友不動産ニューヨークインクに勤務。5番街に所有していたビルを売却後はマンハッタンのコマーシャルビルディングのブローカレッジ業務を行い、2001年にニューヨーク同時多発テロを経験する。その後、米国内での開発エリア開拓のためのリサーチで全米各地を回る。
 08年よりニューヨークよりロサンゼルスのセンチュリーシティーにあるインターコンチネンタルホテルの経営に携わる。
 10年の年末にロサンゼルスへの赴任が決まり、11年1月から住友不動産USAインクの社長となり、現在本格的に米国ラグジュアリーホテル運営・経営の総責任者として指揮を取る。
 同時に13年には住友不動産ヴィラフォンテーヌ(株)の副社長に就任し、14年8月に同社、社長に就任。リゾートを含む大小17か所のホテルの運営も任され、現在日米あわせて千人以上の部下を持ち、日米を往復しながらホテル改革のための陣頭指揮に当たっている。
 12年にロサンゼルス市より「ウーマン・オブ・アチーブメント」を受賞。

従業員一人ひとりに手作りのクリスマスカードを手渡し、一年の労をねぎらう三好社長(写真右)(インターコンチネンタルホテル提供)
従業員一人ひとりに手作りのクリスマスカードを手渡し、一年の労をねぎらう三好社長(写真右)(インターコンチネンタルホテル提供)

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