「あっ、しまった!」と思った時には時すでに遅し。先日友人がスマートフォンをなくした。飲食店の洗面所で手を洗った際、洗面台に携帯電話を置き忘れ、慌てて戻ったがすでになかった。ほんの数秒の出来事だったが、犯人を特定することはできず、諦めるしかなかった。
別の友人もラスベガスの空港で同様の経験をしたことがあった。米国では「忘れ物は返ってこない」と思っていた方が賢明だ。返ってきたらまず奇跡だろう。
しかしまれに奇跡は起こる。サンルイスオビスポ郡パソロブレスに旅行に行った際、友人のひとりが財布をなくした。場所はワインバー。「絶対に見つけた人が持っていってしまっているに違いない」。誰もがそう思った。
しかし翌朝、窓から店をのぞくとカウンターの上に財布がちょこんと置いてあるではないか。財布の中身を確認すると、現金やカード、身分証明書に至るまで何ひとつ盗まれていなかった。みなが顔を見合わせ「奇跡だ」とつぶやいたのは言うまでもない。忘れ物を持ち去ることはせず、持ち主に届けるというのが日本人の常識だが、米国では奇跡になってしまう。
その日本人の気質が招いた出来事が昨年、全米中を感動させた。オクラホマ州で農業を営むケビン・ホイットニーさんは2013年10月、作業中にスマートフォンをなくしてしまった。しかし8カ月後、スマートフォンが彼の元に返ってきたのだ。送り主はなんと日本在住の日本人からだった。
実はスマートフォンは作業中に輸出用の穀物の中に紛れ込み、輸送トラックでアメリカ大陸を横断し、貨物船で太平洋をわたって茨城県鹿嶋市にたどり着いた。その後、製粉所の従業員が約5万800トンの大量の穀物の中からスマートフォンを見つけ、持ち主のホイットニーさんに送り届けたのだ。スマートフォンには娘の結婚式の写真も保存されておりホイットニーさんの喜びは頂点に。「見つけた人が米国まで送り返してくれるなんて信じられない」。日本人の気質から起こったスマートフォンの旅は、地球を半周し、感動とともに全米で伝えられた。【吉田純子】