従業員が行うその日の仕込みをチェックし指導する上地氏

従業員が行うその日の仕込みをチェックし指導する上地氏

「KATSU-YAグループ」取締役会長
上地勝也さん

 日本料理店「極」をはじめ、寿司や居酒屋などロサンゼルスを中心に7店舗のレストランを経営する「KATSU-YAグループ」取締役会長の上地勝也氏。独創性の高い創作和食で多くの米国人を魅了する同氏に、沖縄から海を渡り米国で才覚を発揮するまでの話を聞く最終回。【取材=吉田純子】


「好みは瞬時に感じとる」
人気メニュー誕生の裏側

 

 「KATSU-YAグループ」取締役会長の上地氏

「KATSU-YAグループ」取締役会長の上地氏
「その料理がアメリカ人に合うか合わないかは、その場で瞬時に感じとるものです」。初めて来店した客がカウンターに座ると、最初の注文を見て好みを把握するという。
 「たとえ客が、『おいしい』と言っても、顔を見ると本当においしいかどうか分かります」。表情やリアクションからその場で客の好みを感じとり、その人に合った料理を提案する。そうしているうちにKATSU-YAの定番料理や人気メニューは生まれていったという。
 中には本当は寿司が好きではないのに、来店する米国人客もいる。「ただ座ってもらっているだけではつまらないから、その場で『これとこれで作ってみよう』といった具合で作るのです。すると喜んでもらえる。今度はその料理を見ていた周りの客が注文する。そうして作った料理が増え、次第に人気となり、定番メニューになっていったのです」
 KATSU-YAの人気メニューのスパイシーツナのクリスピーライスやハラペーニョを使った料理などは、実はこうして生まれたメニューなのだという。

SBEグループと提携
店舗数増え事業拡大

 KATSU-YAグループは2004年に、LAを中心にホテルやレストラン事業を展開する「SBEエンターテインメントグループ」と提携した。ビジネスパートナーとして、現在同グループから上地氏がプロデュースするレストランがハリウッドやブレントウッドなど計8店舗出店されている。
 SBEグループからのオファーはずっと断り続けてきた。ラブコールが半年以上続いたある日、一度オフィスに誘われ渋々行ってみた。
 一歩中に足を踏み入れた瞬間、何か感じた。「働いている従業員も含め、オフィスのエネルギーがとてもポジティブだったのです。何度か通ううちに『あっ、一緒にやってもいいかな』と思い始めたのです」
 ここまで規模が拡大しても、上地氏は自らの原動力を意識したことはないという。「最初は自分がやりたいことができる店が1店舗あれば十分だと思っていました。しかし、なぜかあれよあれよと今のような状態になっていったのです」

日系コミュニティーへの思い
忘れてはならない先人の努力

 「今の時代は楽です。私たちがこうして米国でビジネスができるのは日系人の先人のおかげ。彼らが日本人らしく、清く生きてくれたからこそ、後に続く私たちもビジネスがしやすくなった。基盤を作ってくれた彼らの努力を忘れてはならないのです」
 今の世代にできることは、礎を築いた先人に感謝の気持ちを表すこと。上地氏はこれまでにも、日系コミュニティーの諸団体の活動を陰でサポートしている。
 日本食卸売業の共同貿易の金井紀年会長と共にすし学校「スシシェフ・インスティチュート」を設立し、米国における日本食の普及と寿司職人の育成に力を入れるほか、上地氏が会長補佐を務める米国日系レストラン協会(JRA)の活動の一環で、敬老引退者ホームを慰問し、居住者に寿司を振る舞うなど日系社会にも貢献している。

人材育成に情熱注ぐ
後継者は「流れに任せる」

 米国に渡る前、まだあどけなさが残る上地氏

米国に渡る前、まだあどけなさが残る上地氏
 「まだ成功しているなんて言えません。この年になって『成功』とは何かを考えるようになりました。お金を持つことなのか、名を広めることなのか。答えはないでしょうし、人それぞれが幸せであればそれが成功なのではないかと思うのです」
 最近は自ら寿司を握る機会も少なくなった。一方で、若手社員に自ら教え、人材育成に情熱を注いでいる。
 事業が拡大する中、後継者問題について上地氏は、「息子も寿司職人ですが、必ずしも息子が後継者にならなければいけない訳ではないと思います。世の中に必要とされればビジネスは存続します。それをマネジメントできる人材がいれば良いのです。うちにはその望みとなる人材がいます。人の親ですから、もちろん息子に継いでもらいたい。しかしそればかりは流れに任せる。なるようにしかならないと思うのです」
 今後も事業は伸びると上地氏は予見する。しかし「ダメになる時はどうあがいてもダメになる。それは覚悟しています。しかしまた伸びて行く。ビジネスとはそういうレールに乗っているものなのです」。

「無欲、無意識が無限の力に」

 座右の銘は「無欲の力、無意識の力、無限の力」。
 欲を持っている時、物事はうまくいかない。プロの料理人は時として無意識に物事に没頭している時がある。そうした時、思いもよらぬ結果を生み出すことがあるのだという。
 「例えば、目の前で転んだ人を助ける行為に欲はない。それは人間本来が持つ偉大なる力だと思うのです。無意識の力は無限大。私たちは危機に直面すると無欲、無意識になります。欲がからんでくるから力が発揮できない。無意識に無欲にがむしゃらになっていると、いつの間にか無限の力が引き出されているものです」
 若い従業員には「『こうなりたい』と思う自分を常に思い描けば、いつかきっと現実になる」とエールを贈っているという。開店当時、ひとり座禅を組み、店が客であふれる様子を想像していたかつての自分のように。

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