大勢のファンが観戦する最終18番ホールで、ポーズをとる浜野さん
大勢のファンが観戦する最終18番ホールで、ポーズをとる浜野さん
 ゴルフ歴35年の浜野好春さんは趣味が高じ「プロのプレーを目の前で見たい」と、リビエラ・カントリークラブで毎年開かれるプロの大会にボランティアとして参加し、スコアのプラカードを持って選手に着いてコースを回る「スタンダード・ベアラー」を務めている。18日に開幕する「ノーザントラスト・オープン」では、1000人以上のボランティアの1人として大会を支える。【永田 潤】

フェアウエイを歩く浜野さん
フェアウエイを歩く浜野さん
 6年前に、リビエラCCで開かれた同大会に初出場した石川遼のペアリングの下調べで、大会公式サイトを開くと、ボランティアを募集していた。「元々ボランティア活動でコミュニティーに貢献したい」と、JBA、南加日商、オーロラファンデーション、関西クラブ、サウスベイ・マネジメント・セミナーなどに属し、公認会計士という本職とコミュニティーでのネットワークを生かし、社会に貢献していた。「自分がゴルフをしていて、ルールやマナーも普通に分かるので『自分にも奉仕ができる。やってみよう』」と、応募し選ばれて以来、毎年参加している。

「プロのプレーを目の前で」
「役得」のボランティア

 プロのゴルフ大会では、一般として観戦ができるものの「ロープの外の離れた場所から見なければならず、プロプレーヤーのプレーを目の前で見たかった。ロープの外から見ても、プロが狙っている攻め方は分かりづらい」と指摘。だが、ロープの内からだと「打つ位置から見るので、バーディーを狙ってティーショットを右あるいは、左方向に狙っているのがよく分かる。選手が打つ場所から、どうやってピンを狙って打つのか、間近で見ることができる」と、経験者しか分からない差異を説明する。「パーが取れる位置にただグリーンオンしてもダメで、プロはみんなバーディーが取れる位置を狙って打っている」
 例えば、ティーショット後のフェアウエー、ラフ、バンカーなどから、セカンドショットでグリーンを狙う際に、「選手によって異なる作戦を、選手と同じ目線で見ることができ『こういうふうにバーディーを狙うんだ』と納得することが多い。いいボランティアだと思っている」と、「役得」を強調する。さらに、選手とキャディの近くにいるため「作戦の会話が聞こえてくる。ピンまで何ヤードあり、何番で打つかなどのやりとりがおもしろい」

立つ位置が重要のスコア表示
「選手の邪魔にならぬように」

 スタンダード・ベアラーの仕事について「ただ、選手に付いてスコアを表示しているのではなく、立つ位置が重要。常に選手の邪魔にならないように気を遣っている」と強調する。ドライバーは選手の真後ろに立つと視界に入らず問題はないと思われがちだが、挙動不審を抱かれる恐れがあるため「目立たない選手の斜めの前か後ろに無難に立つように心がけている」という。「パットは『ライン上にいては駄目』などと、ゴルフをプレーしてゴルフが分かる人でないと、務めるのは難しいだろう。誰でもこなせるというわけではない」と説く。
 スコアを変える時も気を配る。パーならば変更はないが、バーディーとボギーの時は変える必要がある。ボギーは選手の見えないところで、逆にバーディーを取れば選手はうれしいので、堂々と見えるところで変えても構わない。

「ご褒美」のサインは宝物
ボランティア冥利の「特権」

 選手からホールアウト後にもらうサインは、「ご褒美」で宝物として大切に保管している。石川遼と今田、フレッド・カップルスには、帽子にサインしてもらった。松山のサインボールは2つあり、他の選手のもいくつもある。選手はファンサービスでサインをするが「希望者全員がもらえるわけではないので、一緒に回った『特権』だと思いうれしい」と、ボランティア冥利に尽きる。

談笑する浜野さん。ボランティア仲間からの信頼は厚い
談笑する浜野さん。ボランティア仲間からの信頼は厚い
 「どの選手に着いて回りたいのか」の希望は、経験が長いほど認められる。浜野さんは6年目に達し、「『年功序列』で優先権が上がり、融通が利くようになった」と期待を寄せる。ボランティアチェアマンからは「日本人選手に付きたいんだな」と、言われるほどの信頼関係になった。だが、希望する松山は先々週に米ツアー2勝目を挙げたたため、実力のある世界ランク上位選手と回る可能性がある。希望が通るかどうかは、他の序列の高いボランティアの意思次第という。
 ボランティアは、浜野さんのポジションの他、スコアキーパー、「クワイエット(お静かに)」の看板を掲げる係、ドライビングレンジのボール係、選手の名前の入ったプラカードを用意する係、ドライビングの飛距離を測る係などさまざまな職務があり、無給で一日中働く。リビエラの大会に参加するには、午前6時集合なので、4時半起床、テンプルシティの自宅を5時に出なければならないが報いはあるといい、誇りを持って臨んでいる。
 観戦者は、ホール間の移動をロープの外のコースの脇を歩くのに対し、浜野さんはフェアウエーの真ん真ん中を選手とキャディーの後に堂々と歩き「人の目を引いていて、注目され気分がいい。ボランティアは、いろいろな役目があるが『自分はいい役やっているな』と、つくづく思い、朝早く起きるのも苦でなくなる」

プロの攻め方に個人差
見どころの多いリビエラ

石川遼(左)の打球を見る浜野さん(右後方)
石川遼(左)の打球を見る浜野さん(右後方)
 過去6大会でリビエラCCのコースを選手に付いて回った浜野さん。見どころの多いコースで、プロの攻め方をボランティアの目線で、解説してもらった。
 6番のショートホールはグリーンの真ん中にバンカーがある。ピンの位置は、右奥、左手前などと、毎日変わるため難しいが「バーディーを狙うには、まさに『ピンポイント』で、打たなければならない」。一方のアマチュアは「グリーンのどこかに乗れば『ナイスオン』だが、プロはそういうわけにはいかず、バーディーが取れるパットの位置に乗せなければ意味ない」。鮮やかなプレーの連続に圧倒されるのとは逆に「こんな短いパットを外すのか? 生活がかかっているプロも同じ人間なんだな」と、思うこともある。
 8番はフェアウェーが右左両方にあるため、ティーショットも「選手によって右から攻めるか左から攻めるかが違う。戦略やプレーぶりで、選手の性格がよく分かる」。多くのホールの2打目は、180ヤード以上のバンカー越えにピンがある。「自分なら刻んで打つので、ぜんぜん違う。『プロはこうやって攻めるんだ』と感心する」。10番の短いパー4は、刻んでパーオンを狙う選手もいるし、一打でグリーンを狙う選手もいて「攻めるか、守るかの性格の違いだろう」
 浜野さんのゴルフの腕前は「ハンディは17で、90を目標にプレーする」という。プロの模範を吸収し、自身のスコアに反映できれば理想だが「参考になっているけど、なかなか真似できず、簡単ではない。せっかく間近で見る機会があるが、上達しているかどうかは分からない」

印象的な選手は松山
「見たい日本人の優勝」

 これまでに付いて回った選手は、マスターズを制したビジェイ・シンやジム・フューリック、ジミー・ウォーカー、ゲーリー・ウッドランド、マイケル・トンプソン、ケビン・ナ、日本人では松山英樹、石川遼、今田竜二、上田桃子(女子の大会)など。
 その中で一番印象的な選手は「やっぱり松山選手」だといい「プレーに集中し、マイペースで打つ。パートナーと会話をせずに『わが道を行く』という感じだった」。石川はスイングやグリップをよく確認し「試合中に修正を試みる完全主義。日本で結果を残したので、アメリカでも優勝してほしい」と願う。短気なアジア系選手は、ミスショットすると「怒って表情に表わす。自分で自分の足を引っ張っている感じで、近寄りがたかった」
 そばで見ているので、ラウンド中の日米の選手の「気持ちの持ち方」(浜野さん)の比較ができるという。「みんなリラックスして、打つとき以外はパートナーと会話しながらプレーするのがアメリカ人」。一方の日本人は「ピリピリし、集中力を切らさないようにしている。会話は少なく、『戦うモード』を持続している」と話す。ただ、宮里藍だけは例外で、練習を終え最初のホールに向かう緊張の中で「ボランティアです」とあいさつすると、気さくに笑顔を返してくれた。
 浜野さんは「いつかは、最終日に最終組に付いて回ってみたい」と熱望する。さらに「そこで、日本人選手の優勝を見てみたい」と夢見ており、チャンスは今大会ととらえている。正夢となるのは、リビエラを得意とし優勝候補の筆頭にも挙げられている松山か、先週の大会で4位と好調の岩田か、21日の最終日に希望を託す。

ティーショットに向かう松山(左)を見守る浜野さん(右)
ティーショットに向かう松山(左)を見守る浜野さん(右)

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