北九州の沖、玄界灘に浮かぶ沖ノ島とその関連資産が、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」として世界文化遺産登録が決まった。沖ノ島には、4世紀から9世紀にかけて行われた、大陸との交流成就や航海の安全を祈る大規模な祭祀の遺跡が残る。
海の3女神を祭る沖ノ島や宗像大社へは、JR鹿児島本線の東郷駅で下車。駅名を宗像大社駅に変える案は却下されたらしいが、この数年は、世界遺産登録を前に駅舎周辺の大規模な整備が進行中だった。
実家が東郷駅そばの私も、観光客向けに始まったばかりのレンタサイクルを利用してみた。近くには、世界遺産を構成する8資産のほかに、弘法大師が唐から帰国して最初に創建した鎮国寺などがあり、電動アシスト自転車でこれらを巡るのも良いだろう。
今後多くの観光客が期待されるが、多数の出土品で「海の正倉院」と評される沖ノ島は、上陸が原則禁じられている。女人禁制で、上陸を許される者も全裸で海に入り禊(みそぎ)をしてからでなければならない。
たまたま地元の友人に会うと、東京で新聞カメラマンを務める息子さんが5月末、沖ノ島の大祭取材のため戻って来たという。
実は5月27日は1905年、沖ノ島そばでの海戦で日本がロシアのバルチック艦隊に勝利した日だ。沖ノ島の大祭は、日本海海戦での戦没者慰霊現地大祭として行われている。
宗像市の隣、福津市の大峰山には、連合艦隊司令長官として海戦の指揮を執った元帥・東郷平八郎を祭った神社がある。かつて父親が東郷と共に英国留学した縁のある青年が、大峰山の頂上から海戦を目撃。東郷神社は、彼の計画と提唱で、元帥死去後に創建された。ゆかりの事物も多数収蔵し、代々一族が神職を務めている。
私と夫もまた、大峰山から玄海灘を眺めた。雨に煙って見えなかったものの、手前に大島、その向こうが沖ノ島だ。航海の守護神宿るとされる沖ノ島はまた、大海戦の目撃者でもあった。
夫は社務所でZ旗のピンを買った。アルファベット旗の中で、Zは最後。戦艦三笠のマストに掲げられたZ旗は、「これより後は無し」との覚悟を示したものだという。【楠瀬明子】