あたし、おかあさんだから
 『あたし、おかあさんだから』という歌が日本で物議を醸している。事の始まりはNHKの「おかあさんといっしょ」という幼児向け番組で、新曲として歌われてからいろいろな反響が寄せられ、ツィッターやフェイスブックなどネット上で批判が絶えないようだ。
 長い歌詞なので端折って書いてしまうと「おかあさんになって今、私は独身だった頃の自由で派手な生活とはお別れなの。でもあなた(子供)に出会え、おかあさんになれて幸せ。昔はやせていたし、ネイルもきちんと奇麗にしてお出かけしてたのよ」というような自己犠牲的にもとれる内容。 歌詞は主婦からのアンケートを基に、男性絵本作家のぶみさんによって書かれた。
  また昨年末、別の日本のTV番組で浜田雅功がエディ・マーフィーに扮し、 顔を黒く塗って登場したことに、NYタイムス、BBCなどが批判的に取り上げ、日本在住の黒人作家バイエ・マクニールは、二度とこうしたことの無いようコメント、不快感をあらわにした。彼の憂いは「2020年のオリンピックの際にこれと同じようなことをすれば、日本は世界中の笑い者になるだろう。日本がとても好きだから、あえて声を高らかに伝えたい」とのことだった。なんともありがたくも、むなしいアドバイスだ。
 アメリカで放映されていたミンストレル・ショーなど、白人が黒人に扮して笑いのネタにしていた番組を知らない日本人には、差別意識を持って扮したのではないことは理解できるが、放映前にこうした海外での歴史や風習の下調べをするべきだっただろう。
 このふたつの出来事には共通点があるように思う。表現される人の立場に立つ配慮の欠落と放送前の不十分な下調べ。さらに『あたし、おかあさんだから』の場合は子供向け番組の中で歌われ、昔ながらのジェンダーロールの視点が強く、子供たちへの洗脳作用も憂慮される。しかしこの歌を聞いたおかあさんの中には嫌悪感や反感を募る方だけでなく、共感を寄せ、元気づけられたといったものもある。読み返してみると、言い得ている部分もあるので、 発表前にもう少しふるいにかけてほしかった。【清水一路】

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