このほど、シアトル郊外に住む女性の手元にあったアイヌの風俗画やガラス玉などが70年ぶりに里帰りし、北海道・白老(しらおい)のアイヌ民族博物館で特別展示された。
 「私も、もう95歳。今後は、価値の分かる人の手で安全に末永く保管されることが最善だと信じています」と数多くの貴重な資料を寄贈したのは、フローレンス・メトカーフさん。日本は、フローレンスさんにとって特別な国だ。
 フローレンスさんは、宣教師として日本に渡ったカナダ人の両親のもとに、神戸で生まれ育った。カナダの大学に進学し、戦後はGHQの通訳として日本で勤務。米兵ジョージ・メトカーフさんと出会い、結婚し彼の勤務地北海道で暮らす間にアイヌ文化を知った。二人でコタン(集落)に何度も足を運んだという。
 シアトル近郊に住んで、60年余り。その間、姉妹都市協会役員を務めたり、日本人学生のホストファミリーとなったり。中でも、日本企業が多数アメリカに進出した1980年代には、大勢の駐在員夫人たちに英語や料理を教えて慕われ、帰国後も親密な交流が続いている。
 アイヌ風俗画で知られる平沢屏山の作品など、フローレンスさんの持つアイヌ文化財の価値に気づいたのも、シアトル再訪でメトカーフ家を訪ねた元駐在員家族の一員だった。
 「スミソニアンにある絵と同じ貴重なものだと聞き、驚きました。東京の国立博物館への寄贈を提案されましたが、私は白老の博物館に返したいと思いました」
 夫妻がその当時撮影した16㎜フィルムは、アイヌの女性たちによる踊りを収めた珍しいもので、貴重な資料として博物館関係者を特に喜ばせているという。
 白老のアイヌ民族博物館は、特別企画展を最後に3月末で休館となった。オリンピックの2020年に、国立アイヌ民族博物館としてよみがえるためだ。
 白老は、札幌から南へ特急列車で約1時間。温泉地・登別の少し手前にあり、ポロト湖畔には、博物館と国立民族共生公園からなる「民族共生象徴空間」が誕生する予定だ。フローレンスさん、それまでどうぞお元気で。【楠瀬明子】

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