「いつまでも年寄りが主役ではダメです。私も年寄りです」「地域でいろいろな面でお年寄りの声は聞こえますが、若者の声が小さいです」。この若者の声を大切にすることがこれからの一番の課題だと、高齢化率全国トップの秋田県の知事が新年のあいさつで県職員に話した。なんだか素直に好感を持ってしまった。
 確かにお年寄りが元気なのはいいこと。亀の甲より年の功。豊かな人生経験が成功に導く時もある。けれど他人の意見に耳を貸さず地位と名誉にすがっていては世の中いい方向には動かない。何事も新陳代謝が大事なのだ。秋田県に限ったことではない。東京でも、日本全国どこでもそうなのだ。
 そんな秋田県で、老舗企業の若い跡取りたちを中心に新たな動きが起きている。舞台は100年以上続く老舗の酒造メーカー5社。従来の酒造りを進める杜氏らと離れ、蔵元自らが杜氏となって新たな風を吹き込み、大成功をおさめた物語だ。今はこの5社が連携して「NEXT5」として活躍し、女性や若者などこれまで日本酒に縁がなかった人たちにも販路を拡大し、その影響を日本全国、そして世界にも広げている。いずれも既存の勢力や考え方を捨て去ったことで新たな道が開けたという。
 彼らの作る日本酒はどんなものなのか、気になって飲んでみた。爽やかかつフルーティーでとても口当たりがよい。お猪口で飲むよりワイングラスでたしなみたいくらい。「日本酒=おじさんの飲み物」という固定観念が大きく崩れた。
 町の小さな酒屋の前には若い人たちがたむろしている。驚くべき光景。狭い店内には冷蔵庫で冷やされた日本酒がずらりと並び、女性も若い人も何を買おうか冷蔵庫越しににらめっこ。若い店員は、30代の蔵元が作った酒が今日のイチオシだと薦めてくれた。
 酒屋に足を運んだのは生まれて初めて。「黄色いケースに入った瓶ビールや灯油を配達してくれる店」という子供の頃のイメージは大きく覆された。
 「出る杭は打たれる」というが、今の時代は「出る杭を大切に守る」ことが大事なのだろう。そうしない限り日本はいつまでたっても時代に取り残されたままになってしまう。意欲ある若者をどう育て見守っていくか、それはまるで酵母の力を信じて発酵を見守る酒造りと同じではないかとふと思った。【中西奈緒】

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