アシスティブテクノロジー(補助技術)を使った障害児教育を専門とする金森教授はまず、iPadを使ったコミュニケーションの実践方法として、 視線入力ソフトの使用方法について説明、指導を行った。
あらかじめiPadやiPhoneにソフトをダウンロードし、それらを持参した参加者約30人は、教授の映し出すスクリーンを見ながら、手元の操作ボタンや画面上のアイコンを操作した。操作に行き詰まった保護者を福島教諭がていねいにサポートする様子もうかがえた。
同教授ら共同開発チームは、障害者を支える最新技術をテーマとした世界最大規模の国際会議出席のため、数日前よりアナハイムを訪問していた。「親の会」はこれを絶好の機会と捉え、勉強会を開くことを決定。最新の視線入力技術を学べるとあって、参加者はみな熱心に金森教授の話に聞き入った。
社長の中島さんとともに500人以上の障害者を訪ね、さまざまな問題を抱えた利用者が意思を伝えやすい設定を研究してきた。それまで天井しか見ていなかった人が、「トイレに行きたい」、「腰が痛い」と伝えられるようになる 。この変化は技術者である沖野さんらに驚きや感激、勇気を与える。中島さんは「ITを使って患者のニーズにどこまで対応できるか、模索しながら開発を続ける」と力強く語った。
先天性多発性関節拘縮症の障害を持つリザちゃん(7)は、関節が曲がらない症状を持って生まれてきた。毋の雅弥さんは「ボタンを押すことに飽きたり、疲れたりした時に視線入力が使えるのではないか、その可能性があるならと思い参加した」。リザちゃんは視線入力ソフトを使い、画面に動く物体の狙い撃ちなどに初挑戦。うまく的に当たると親子で笑顔を浮かべた。
ある母親は、普段の生活で使い慣れているはずのiPhoneに、これまで知らなかった機能があると知り、福島教諭に習って使用方法を修得した。「娘の好きな動画を保存する作業が楽になる」と喜んだ。
金森教授と福島教諭は前々日の世界会議で、およそ40人を前に研究発表をした。視線入力の先進国スウェーデンをはじめとする各国の参加者から好意的な意見をもらい手応えを感じた。
このグループのメンバーの馬上真理子さんは当地の現状を踏まえ感想を述べた。「法律の下、 アシスティブテクノロジーの査定が行われ、教育的サービスを障害児に提供することになっている。しかし言葉や文化の違いから思うようなサービスを受けられないこともある。第一線で活躍する金森先生ら専門家の日本語でのセミナーは、私たちにとって大きな情報源となった。自分の子どもに活用できる様々なアイディアを得られたと思う」
視線入力などの新しい技術の導入があれば、発達障害の子どもたちばかりでなく、病気で意思疎通が困難な高齢者にも可能性が広がる。アシスティブテクノロジーの利用が、世界中どこの地域にいても広く一般に普及する日が早く訪れることを期待したい。
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