「靴を履かなくてもオッケー」というのは最新のオフィス模様のトレンドだそうだ。Shoeless Office Policy つまり「土足厳禁」という会社が出現しているらしい。社員はソックスや持参のスリッパで勤務。本人がしたければ、裸足でも良いらしい。
  会社で食事が無料で食べられるとか(それも高級レストラン並みのクオリティーで)、リフレッシュ用のジムや娯楽室があるとか、話題になるのは大抵がシリコンバレーの若いスタートアップ企業だ。転職率の高い業界で会社を魅力的にし、良い人材を呼び込み、長く留まってもらおうという努力の表れである。たとえば机すらない家庭の居間のようなオフィス。服装もどんどん自由化が進む…。
 結果至上主義の傾向に伴って90年以降に仕事着のカジュアル化が起こった。そこで思い出したが、10年ほど前だったか、プロジェクトランウェイというファッションデザイナー発掘の人気番組で「就職面接に着ていく服のデザイン」というお題目があったのだが、優勝のデザインに、「コレはないでしょう〜!」と浦島太郎のごとくに驚いた。そして、ビジネススーツ風の服は全て「古くさい」とこき下ろされていた。私としては「面接ぐらいは今でもスーツのほうが無難では?」と言いたいが、全くもって時代遅れかもしれない。若い経営者の会社に行けばもっと自由だから、シリコンバレーのスタートアップの革新が際立つのだ。
 だが、一見、カウチに裸足の足を投げ出してくつろいでいるかに見えても、膝の上のノートパソコンでやっている仕事は最先端の機密の案件だったりするわけで、これは結果至上主義とプレッシャーリリースの裏表である。そんな会社に勤めたら「家より会社のほうが居心地が良くてますます頑張って働いてしまいそうだ」と思う私を、もう一人の私が「勤務時間の長い社員を素敵な環境で幽閉するということでは?」と揶揄する。
 その是非はさておき、シリコンバレーの「土禁」会社の玄関に並んだ、日本の幼稚園にあるような靴箱の写真が、私を微笑ましい気持ちにさせた。【長井智子】

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