コロナウィルス感染予防のため、加州では外出禁止令が出て、3週間が過ぎた。中国の武漢で発生した新型ウィルスは、たちまちの内に拡散し、世界を混乱と恐怖に陥れている。
滞米以来40年、今回のような長期の外出禁止令が出たのは初めてである。人口密度の高いニューヨークの感染者数は爆発的に増え、毎日うなぎ上りの死亡者数を見るのが恐ろしい。われわれのために身をさらした緊急隊員、警官、医療関係者が犠牲になるのはつらい。今も身の危険を犯して人々のために働いている人たちがいる。私たちが協力できることは、外出せず、わが身と他者を守ることだ。
ほぼすべてが閉鎖されたから人々は失業し、収入が途絶え、健康保険を失う。家での蟄居(ちっきょ)が長引くと身体の健康はもとより、精神の安定と生活の安定も危うくなる。そして失った平穏な日常のありがたさを思い知る。行きたい所に行きたい。会いたい人に会って話したい。働きたい。社会に役立ちたい。できない時にはかえってそれらの願望が湧きおこる。
ビジネスの世界で20年間生きてきた。その間、大きな事件に二度出くわした。9・11とリーマンショックとである。どちらも混乱と恐怖の暗い期間を通り、日常を取り戻すのに1年以上を要した。9・11後は、底しれぬ悲しさと無力感が社会に充満した。リ-マンショックの時はたくさんの人々がモーゲージの支払いができず、悲惨極まる選択を強いられた。どちらも衝撃の出来事だった。
つらい時は、耐え、自分をしっかり支える他ない。混乱の中では正しい判断ができない。否定的な言葉、諦めの言葉を吐きたくなる時ほど、我慢が必要だ。積み重ねた努力が、時間の経過と共に、いつか状況を改善させ、どこかに希望が見えてくるはずだから。
9・11もリーマンショックも克服した。アメリカはあきれるようなことも多々あるが、非常事態には結束して戦う底力がある。世界で一番民主的な国だと誇りを持って住んできた。その理想は今も崩れていない。コロナの恐怖もきっと乗り越えられるだろう。自分の役割をしっかりと果たし、経過を見守りたい。【萩野千鶴子】