「無実の貧困者より、罪を犯した金持ちが優遇されるアメリカの刑事司法制度を批判する、強力な証拠になるだろう」―黒人差別が残るアラバマ州で1985年、身に覚えのない殺人容疑をかけられ死刑宣告を受け、28年もの歳月を死刑囚監房で過ごした黒人アンソニー・レイ・ヒントン氏の無罪を勝ち取った、ブライアン・スティーブンソン弁護士の言葉だ。
 NYタイムズ紙のベストセラーにもなったヒントン氏の著書「The Sun Does Shine」(邦題「奇妙な死刑囚」)を読んだ。著者は、29歳の時に、アリバイがあるにも関わらず、強盗銃撃事件の被疑者として起訴され、その後さらに2件の殺人事件で追起訴され、人種や貧困を理由に十分な法的援助が受けられないまま、死刑を宣告される。死刑囚監房での最初の数年間は、憎しみと絶望から人と話すこともせず心を閉ざしたが、幼なじみの親友の支えや他の死刑囚との友情を得て、前向きに自分らしく生きていこうと決意する。
 無実の証明を試みるが、希望の光は繰り返し消される。周りの死刑囚らが処刑されていく中でも、あきらめることをしなかったのは、無条件の愛を注ぎ続けてくれた母親の影響が大きいと著者は言う。死刑囚監房で作った読書クラブで出会った白人死刑囚は、家族がKKKで、幼い頃からずっと黒人を憎めと教えられてきた。著者は、黒人少年をリンチした罪を恥じるこの白人をも許し、心を通わせる。
 この本を読み、無実の死刑囚を100%出さない司法制度が確立されない限り、死刑制度は廃止されるべきとの思いが強くなった。本の最後には、国内の死刑囚全員の名前が列挙され、その10人にひとりは無実だと書いている。
 悲しいことに、著者が愛した母は、収監中に病気で亡くなっている。2人の関係を思う時、死の直前に母を呼んだジョージ・フロイドさんの姿が重なる。この国で、黒人の息子を育て上げるのは並大抵のことではないのだと、痛感させられる事件が後を絶たない。
 ミネソタ州では現在、フロイドさんの首を膝で押さえ付け死なせたとして、殺人罪で起訴された白人元警官の裁判が山場を迎えている。陪審員12人全員の意見が一致しなければ、有罪は確定しない。アメリカの刑事司法制度が、再び問われている。【平野真紀】磁針

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