「高校の卒業証書は、僕の人生を左右する大切なものです」。これは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のメリッサ・フレミングさんがシリア難民のハニ少年にした、「シリアから何を持って逃げてきたか」という質問に答えたものです。学校への通学路にはスナイパーがおり、教室では爆弾の音が止まない、そんな学校に、少年は命がけで通っていたそうです。少年の母は「行かないで」と毎日懇願したそうですが、ハニ少年は信念を持って学校に通い続けました。そして戦乱の中、卒業証書を携えて隣国レバノンに逃げてきたのでした。
現在500万人に迫ろうとしているシリア難民の半分は子供だそうです。その識字率は約20%。信じられないほど教育が進んでいない国で、戦争が終わった後に誰がその国を作っていけるのでしょうか。国を再建するには教育された人材が必要です。そして難民自身が復興に関わっていく必要があるのです。教育によって国を混乱や貧困から防げるのです。
そのことをハニ少年は知っていたのでしょう。「高校を卒業するという決意は、どんな恐怖よりも強い」、と言わせる信念を持ち合わせているのです。平和というシェルターの中で隔離されて生活している私たちには、考えも及ばないことです。資金ではなく、圧政や軍事力でもなく、宗教に頼るのでもなく、教育が唯一国を立て直せる手段だと考えることに一寸の間違いはありません。子供は未来の担い手です。暴力の連鎖を断ち切ることのできる唯一の方法は、子供への教育なのです。
さて日本は宗教や文化が違うといって、何もしなくてよいのでしょうか。難民の受け入れをEUだけに頼ってよいのでしょうか。実はシリアと日本は昔からつながりが深く、シリアには日本語を話せる人も多くいます。そんな難民の子供たちを日本で教育させ、その家族に仕事を与えることができないのでしょうか。人道支援は私たち地球人の務めです。ハニ少年が命を掛けて学校に通って手に入れた卒業証書を無駄にしてはなりません。【朝倉巨瑞】