二世週祭で賑わう小東京の2街で、ふとピンク色に塗られた壁画に目が止まる。そこにはこう書かれていた。「Where is the love」。この言葉に10年以上前、世界的ヒットとなった米音楽グループ「The Black Eyed Peas」の同名の曲を思い出す。9・11テロの後に作られた同曲の歌詞にはこんな一節がある。「差別は憎しみのみを生み出し、憎みだすと怒り狂いだす―」。まさに今、米国で起きている状況のようだ。
バージニア州シャーロッツビルで12日に発生した極右集団と反対派の衝突。19日にはこうした一連の差別に反対する抗議デモがボストンで行われ、推定4万人が参加したとされる。今年は人種差別が引き金となって発生したロサンゼルス暴動から25年を迎えた。しかし今も変わらず人々は肌の色や人種、民族の違いで憎しみあっている。壁画があるまさにその小東京でも、かつて日系人が差別に苦しんだ時代があった。
先日ある日系3世の女性と話をした。彼女は幼少期を強制収容所で過ごした。理不尽な待遇を受けても両親からはいつもこう教えられたという。「辛いことがあっても我慢よ―」
時が経ち、おばあちゃんになったある時、自分の思ったことをしっかりと口にできる孫の姿に驚いたという。「幼い頃、私たち3世は自分が本当に思っていることを心の中に封じ込めていることが多かったから」。そしてこう続けた。「4世、5世は日系人の差別の歴史を感じさせないほど子供の頃からしっかりと自分の主張が言える。そのことを誇りに思う」
こうして時代が変わる一方、今も全米には人種や民族、宗教などをもとに特定の個人や集団に憎悪行為を行う団体が917団体もあるという。なかでもカリフォルニア州がもっとも多く、白人至上主義や反同性愛を訴える団体は79団体ある。リベラルな風土で知られる加州なだけに、驚きを隠せない。
過去の教訓は生かされないのか。歴史の過ちを正すため奮闘した先人たちの尽力も虚しく、人々が互いに攻撃をやめる日は来るのだろうか。二世週祭で賑わう小東京で歴史を振り返り、今の状況を嘆く。せめて祭りを楽しむ子供たちの明るい笑顔に未来への希望を託したい。【吉田純子】