四つの島からなる北方領土に住んでいたかつての島民が、里帰りをしていたことは知っていた。先祖の墓参りくらいだと思っていたが、今回の国後島訪問で、同行したある衆議院議員の信じがたい問題発言が取りざたされたことで、訪問の意義の深さを知った。
問題とは、元島民で訪問団団長が現地で日本人の新聞記者2人にインタビューを受けていた最中に突然、酒癖が悪くその夜も酔っていたというその議員が乱入し「(ロシアが混乱状態にある時に)戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と問うた。団長は「『戦争』という言葉は使いたくない」と強調し、子どもの頃に生まれ育った島を戦争により去らなければならなかった悔しさを滲ませながらもちろん反対した。
優秀で将来が嘱望される議員は30代半で、平和教育を受けたはずなのにと残念に思う。国民に模範を示す立場の国会議員が、あろうことに訪問した大事な島で失態を犯してしまった。
元島民のビザなし訪問は1992年から始まり2016年までで、なんと343回、延べ1万2861人が参加している。現地のロシア住民との交流を重ね、家庭を訪問して互いの文化を紹介し合っている。当初は、現島民が日本が主張する領土問題について知らなかったのは無理もない。また、日本人に間違った印象を持っていたが、交流が深まるにつれ誤解が少なくなる成果を挙げている。
別の元島民はまた、テレビのインタビューで「ここは元々私たちが住んでいた日本の領土だ」と、民間人同士では話していたという。だが、政府間交渉に配慮して、近年は発言を慎重にしており「交流を続け友好を深め、返還につながる環境づくりに気を遣っている。せっかく、ここまで積み上げてきた。でもこの先、(議員の発言が)何も影響がなければいいんだが…」
近隣諸国と領土問題を抱える日本。問題解決への道は険しいが、誓った戦争の永久放棄を守りながら、元島民が言うような「積み重ねる」地道な交渉を信じよう。【永田 潤】