息の合った動きで観客を魅了する本番でのパフォーマンス
 カナダに拠点を置くサーカス劇団「シルク・ドゥ・ソレイユ」の最新作「VOLTA(ボルタ)」が現在ロサンゼルスで上演されている。世界トップクラスのパフォーマーが揃う中、2本のロープを使ったパフォーマンス「ダブルダッチ」で観客を魅了する日本人がいる。屋比久嗣孝さん、屋比久友子さん、谷澤潤さん、見島良拓さん、橋本昌和さんの5人だ。今回、そのひとり屋比久嗣孝さんが舞台裏での奮闘記や演目に懸ける情熱を語ってくれた。

LEDを使用した縄で魅せる本番ステージの演技
 ボルタは名声を得た主人公ワズ(WAZ)が自分を見失い、「本当の自分」を探し求める物語。ロサンゼルスではドジャー球場の駐車場に設けられた特設テントで3月8日まで上演されている。
 このボルタの中でダブルダッチを披露しているのが日本人パフォーマーの5人。ダブルダッチとは2本のロープを使って跳ぶなわとびで、跳び手がさまざまな技を織りまぜながらパフォーマンスを披露する。2人の回し手との息の合ったチームワークや跳び手のリズム感などが求められる。
 「先輩がやっていたのを見よう見まねでやっているうちにその楽しさにはまり、次第にパフォーマンスに興味をもつようになった」と語る屋比久さん。18歳からダブルダッチを始め、今年で18年目。2011年にはダブルダッチで1分間に215回跳び、ギネス世界記録に認定された。「僕は運動神経が良いほうではない」と話すが、高校時代に始めたダンスで身に付けたリズム感が、キレの良い動きを要するダブルダッチのパフォーマンスに生かされた。
 石垣島出身で、11年まで日本を拠点に活動。しかし次第に海外にも目を向けるようになり、オーディションを受け、翌12年から海外を舞台に活動を開始した。シルク・ドゥ・ソレイユのメキシコでのレジデンスショー「Joya」に出演していた際、ボルタのキャスティング担当者の目にとまりスカウトされた。
逆立ちして跳ぶ妙技の披露
 「好きなことを仕事にできた。(仕事というより)ゲームみたい。プレッシャーは感じていない」と話す。その背景には、自分たちが求めるものを体現できる環境があるようだ。「僕たちがステージで輝けるのはやりたいことをやらせてくれているから。パフォーマンスに関しては70%くらいが自分たちのやりたいこと、残り30%がディレクターの意見やお客さんが求めるものを意識している」と話す。
 トレーニングでは毎日成功するように練習を重ねているが、万が一失敗した時のための練習も欠かさない。「間違いをしてしまった時も観客に悟られないようにしなくてはいけない。ミスをしないということが僕たちの最初の目標だった。今でも毎日記録をつけ、ロサンゼルス公演でのノーミス率を記録している」
 世界一流のパフォーマーが集うシルク・ドゥ・ソレイユの舞台で1番高揚したのはスタンディングオベーション。「スタンディングオベーションはパフォーマーの心も動かします。観客の心が動いたから拍手を送ってくれるのだと思いますが、その目に見える反応に僕たちも感動する」
 世界各国から来たパフォーマーと舞台に立つ中で感じた困難はコミュニケーションの仕方。「コミュニケーションは国によって違うので、学ぶのに時間がかかる。一番最初にしたことは名前を覚え、お互いが名前で呼び合えるような関係を築くこと」。他文化を学び、国も言葉も違う共演者と近い存在になることを常に意識し、日本人パフォーマーたちは今日も世界という舞台で挑戦を続ける。【吉田純子】
トレーニングテント内で練習に打ち込む屋比久嗣孝さん(写真=吉田純子)

ボルタでダブルダッチを披露し世界という舞台で挑戦する(前列左から)屋比久友子さん、屋比久嗣孝さん(後列左から)谷澤潤さん、見島良拓さん、橋本昌和さん(写真=マイケル・ヒラノ・カルロス)

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