さえないサラリーマンが営業終わりに一人、おいしく食事をする。そんな単純なストーリーのドラマを毎週なんとなく見ていた。気が付けば次週が待ち遠しくなったのは、外食がうらやましかったからだと思う。
 緊急事態宣言が明けてもうじき1カ月。東京の感染者数は1日20人くらいと驚くほど少なくなった。これまでの反動からか、週末になると今がチャンスとばかりに外で食事をしている。
 そんな矢先の日曜夜、猛烈にお腹が痛くなった。病院で胃腸炎と診断され、最近何を食べたのか聞かれた。思い返すと韓国料理、タイ料理、台湾料理…。いずれも辛いものばかり。もともと体調が良くなかったところに辛いものが追い打ちをかけた。
 食べるものが極端になってきているのは否めない。家で作るものもテークアウトも、和食が少なくなり、アジア料理が中心に。スパイスのきいたものや唐辛子が入ったものがどうしても食べたくなってしまうのだ。
 これは一種の禁断症状かもしれない。日本を最後に出たのはもう2年前。せめて食事中だけでも旅行気分を味わいたい。料理が運ばれて口に入れた時の匂い、舌の上や喉を通る味わい。一瞬だけでもここが日本であることを忘れさせてくれる。
 味覚は記憶を呼び起こす効果があるからか、食べていると過去の思い出の中で生きているような不思議な感覚になる。韓国料理を食べればコリアタウン、タイ料理はリトルバンコク、ベトナム料理はウエストミンスター、中華料理はチャイナタウン、メキシコ料理はアリゾナやニューメキシコの旅先。アメリカで過ごした時代が鮮やかによみがえり、多国籍なクラスメートやハウスメート、職場の仲間たちのことを思い出す。
 コロナ禍で在宅勤務をしていると、単調で抑制的な生活になり、人との関わりも少なく内向的になる。今を生きるのではなくて過去の思い出と共に生きる毎日。そんな中で、唯一警戒が解けて外向的でアクティブになったのは食生活だ。まだまだ海外には出られそうにないそんなご時世だけど、口の中だけは、胃袋だけは、渡航制限が解除されてインターナショナルに戻っている。【中西奈緒】

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