【朝倉巨瑞】

  磁針の原稿を書く時には、まずは文字数を気にせずに書き連ねるようにしています。そこから調べたり、重複したり無駄な表現を削り取っていきます。陶芸で言えば、ろくろで粘土を回しながら少しずつ成形をしていくような作業です。
 そうして規定の文字数に近づいても、それでも完成の原稿とはしていません。文章を書く場合には今の思いを書き出していますが、数分後には違う表現にしたくなり、さらに最新の思いを書き足したり引いてみたり、修正を加えるからです。私の場合には、一晩置くようにしています。眠って起きれば新しい修正点を見出し、また新しい表現を思い付いたりする場合もあるからです。書くということは、いったん立ち止まりながら思いを絞り出していく作業なのです。
 パンデミック中には、経済活動の停止を余儀なくされます。今まで会っていた人と会わず、見ようとした景色を見る事もできず、動こうとした活動を実行できないのが今の状態です。数十年の一瞬を切り取った場合には、残念な年と言えるのかもしれませんが、地球の長い歴史から俯瞰(ふかん)すれば、繰り返し起こる自然現象であり、そこには人類の叡智(えいち)が結集され、切り開いて進んでいくための一時停止なのではないかとも思えます。立ち止まることは、人類進化のために意味があるのだと教えてくれているのかもしれません。
 正しいという漢字は、「一」に「止まる」と書きます。漢字の歴史では、城郭に向かって進むという動作を表し、古代中国の王朝が民衆を支配する意味があるそうです。ただし、立場によってあらゆる方向から見る正しさがあります。つまり権力者が正しい事として伝えることが、本当に正しいかどうかを一度立ち止まって疑うことが必要なのです。
 正しいとは、立ち止まり、休息し、熟慮し、修正するという意味があるのだと思います。一度止まることは、決して後ろ向きなことではなく、正解を導くために必要な時間なのです。新しい年の始まりは、本当の正しさを導くために一度踏みとどまって検証するのに良い機会です。本年もよろしくお願いします。

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