日本に「はじめてのおつかい」というテレビ番組がある。小さな子どもにお使いを頼み、その様子を陰から見守るバラエティー番組で、不定期ながら1991年から30年以上にわたって放送されている。こんな幼い子を買い物に出すのはどうかと思いつつ、ハラハラしながら私も見ていた。
そんなことが思い浮かんだのは、夫が初めてオンラインショッピングに挑戦したからだ。
夫は携帯電話も使わない人間で、もちろんインターネットにも全く興味がなく、必要な本などは家族に頼んで買ってもらっていた。ところが昨年タブレットをプレゼントされて以来、インターネットの世界ではありとあらゆるものが売られていることに気付き、暇があれば興味あるものを探し出して眺めるようになった。そしてついに、初めて自分でオンラインショッピングをすることを決意したのだ。欲しいのは宝船の置物。本人いわく、「頭がだいぶおめでたくなってきたので、めでたい物が欲しい」
初めての挑戦はかなり時間のかかるものとなった。
骨太の指は思いがけない箇所にすぐ触るらしく、住所や名前を正確に打ち込むだけで一苦労。せっかく打ち込んでも何かのはずみに消えてしまうようで、「しまった」とか「情けないなあ」という声が頻繁に聞こえてくる。ようやく注文を送信し終えて喜んでいると、今回の米国からの買物にクレジットカードは使えず、日本の銀行振り込みのみと判明して断念。それでも諦め切れなかったようで、振り込みを日本の親戚に依頼することにして、再度挑戦していた。
何度かのやりとりの末に振り込みが完了したのは、購入を思い立ってから1週間後のこと。初めてのオンラインショッピングは大変だったけれど、少なくとも自分のすることは終わったと自信もついたようで、進歩を祝して夕食にはワインで乾杯した。
多くのことをインターネットに頼るデジタル社会は、大変便利ではあるけれども、年取ってから直面する者にはなかなか難しい。私たち夫婦は、便利さと生きづらさの狭間に生きているアナログ世代であることをしみじみ実感している。(楠瀬明子)