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能ある鷹(たか)は爪を隠す…べきか?

 安土桃山時代の北条氏直の書物が語源といわれる「能ある鷹は爪を隠す」のことわざが、長年妙に気になる。歴とした有能者は、ここぞという時のみに真価を発揮する。やたら自慢したり誇示したりせずに、周りの空気を読み、「謙虚」になれという教えと理解する。 アメリカに長く在住すると、日本では「美徳」と考えられているこのことわざが、ここでは果たして通用するのか? 当惑と疑念が生じてしまう。 大学留学当時、クラスで優秀な生徒たちは一番前の席を陣取り、積極的に手を挙げて教授に対して猛烈に存在感をアピールしていた。真面目におとなしいだけでは、誰からも認められずに、機会にも恵まれない。馬鹿正直に対応するだけでも、結局、損した経験も幾度となく直面した。慣れない自己主張を態度や声に出して表現しないと、置いてきぼりを食らうだけの厳しい現実社会だと痛感した。 「俺は凄い金持ちだぜ!」とむやみにやかましく威張り散らし、権威乱用、威嚇とうそ八百で大統領にまで登り詰めた人物を生み出した究極の既存事実もある。最近では、ビリオネアたちが次々とぜいたくな宇宙旅行を敢行し、盛大な称賛とメディアの注目を浴びる。まさに「能ある鷹は爪を見せる」だ。アメリカを象徴する国鳥のイーグルを組み込んだ国章は、立派な爪を披露しオリーブの枝と矢をわしづかみする図柄である。 ある就活事情の調査によれば、85%の志願者が、功績や技能を記載するレジュメ(いわゆる履歴書)の作成上で、誇張や虚偽をしたことがあると自供する。 「(能がなくても?)うそでもやれるとおまじないのように自分に言い聞かせると、自信がつき、いつの間にか本気でやり遂げてしまう時がある」というアメリカ人の仲間からの意見も聞いた。一種のハッタリ空威張り自己陶酔心理的プラス志向妄想原理だ。 とにかく、アメリカは多種多様の人々、文化、習慣、価値観で構築された独特な社会だと受け入れて、柔軟性を備えて巧みに適応していくのが最良だ。  現在東京五輪開催中だが、出場している選手たちは皆、能ある鷹たちであることは間違いない。大いに見せつけてほしい。【長土居政史】