知人の裏庭にバナナの花が咲いたという。3年前に苗木を5本植え、その中の1本にバナナの房が付き、そのまた下に花がぶら下がっているという。早速見に行く。
 幾重にも巻きついたバナナの房の下に、手の大きさほどの花が垂れ下がっていた。睡蓮の花がひっくりかえったような形だ。バナナも花も堂々として、いかにも南国の雰囲気だ。
 バナナの花といえば、私は反射的に作家の「よしもとばなな」を思い出す。ばななという珍しいペンネームの理由を聞かれ「バナナの花が好きだから」と答えていた。彼女の作品の中に、少年と少女のひと夏の淡い恋がそれとなく描かれた優れた作品があり、注目していた。父親が一時代のオピニオンリーダーだった思想家で詩人の吉本隆明なのも気になる理由の一つだった。自分の名前にするくらい好きな花とは、どんな姿かたちをしているのだろう。気になっていたが、やっと実物に出会えた。大きく、存在感があり、栄養豊富な優れた食べ物を生み出す。「風格」という花言葉がピッタリだ。
 バナナはアジア、ラテンアメリカ諸国で大規模栽培されている。流通の発達のおかげで安価で1年中手に入るのがありがたい。一説によると、エデンの園の「知恵の樹の実」は、通説のイチジクではなく、バナナであったとする説もあるらしい。1本19セントのバナナにも歴史がある。
 仕事の後、さらに会合が重なる時は、エネルギー補給の助け舟である。バナナを部屋の隅でこっそり食べ、水を飲む。フルマラソンのゴールには半分に切ったバナナが山盛りになって用意されていた。ゴールに入るのが遅い私がありつける頃には、既に茶色に変色している。「サルじゃああるまいし、こんなに山盛りのバナナが食えるか」と思ったが、食べてみると、あら、不思議。今にも倒れそうだった体が持ちこたえた。バナナの栄養価の高さをはっきりと悟った瞬間だった。
 朝食はもっぱら1本のバナナと1杯の熱いコーヒーである。さあ、今日もバナナの花のように力強く、おおらかに行こう。あ、バナナをもう1本、カバンの中にしのばせて。【萩野千鶴子】

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