所作がきれいな人は美しい。先日、東をどりを観賞した。そこで見た新橋芸者はうちわをゆっくりとあおぎ、ただ立っているだけで美しかった。ひとたび舞台に立てば、優雅な舞で人々を魅了する。
 東をどりは年に一度、新橋演舞場で4日間にわたって行われる初夏の催し。大正14年に始まった東京の伝統行事で、新橋花柳界の芸者衆が一堂に会し、舞を披露する。開演前の会場では芸者衆が観客を出迎え、通常お座敷でしか会うことができない彼女たちを間近で見ることができる。
 日本人として生まれてきた以上、日本の伝統芸能を知っておかなければならないと思ってきた。ロサンゼルスには茶道や華道、書道、日本舞踊など、日本の伝統芸能を教え、世代や人種を超えて継承に励む教授陣が数多くいる。こうした教授たちの伝統を守り続ける強い思い、米国で一生懸命に芸の道に励む生徒たちの姿を垣間見る機会があったことも、気持ちを後押しさせたのかもしれない。
 新橋芸者衆は江戸千家小川宗洋師の指導のもと茶の稽古を受けており、幕間ではお点前も披露。茶碗を静かに置く姿、柄杓をていねいに持つ動作もすべてが美しく、見ている客は思わずうっとり。おしろいと着物姿の芸者衆を前にすると、何だか江戸の粋が今に息づいているようで、古き良き時代にタイムスリップしたかのようだ。
 面白かったのは海外からの客の姿もあったこと。「初めて芸者を見た。着物姿も茶道の所作もすべてが美しかった」と終始大喜び。彼らを見て、もしLAに芸者衆が来たらどんな熱狂が巻き起こるかと想像してみた。LAでは古くから日本の伝統文化を継承する日本人、日系人の尽力のおかげで、二世週祭をはじめ、茶道や着物など日本の文化を知る機会がたくさんある。米国でもっと多くの人に日本の魅力を知ってもらえたらうれしい。また美しい所作は人を不愉快にしない。心掛けるだけで日々の生活が変化するかもしれない。
 LAに戻り、空港職員の疲労感たっぷりの態度、少し雑な書類の受け渡し風景を見て、「ああ、アメリカだ」と現実に引き戻されたのは言うまでもない。【吉田純子】

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