学費を払うのは大変なこと。学部生の時代は日本学生支援機構(旧日本育英会)から借りて、社会人になって10年間かけて返却。アメリカで大学院生になってからは貯金をはたいた。誰かが肩代わりしてくれるなら、そんなありがたいことはない、と思ったこともあった。
 そんな貧乏大学院生まっただ中だったある日、たまたま手にとった本が「貧困大国アメリカ」(岩波新書)。アメリカで活躍するジャーナリストの堤未果さんが書いたルポルタージュだ。貧富の差が広がるアメリカ。しわ寄せを受ける若者たち。その貧しい若者たちに教育のチャンス、将来への希望を与えているのが「軍」なのだという。
 多額の学生ローンを抱えた大学生や、大学に行きたくても貧しくて行けない高校生たち。そんな彼らを魅了するのが、軍が提供するローン返済免除の奨学金制度だという。「学ぶこと」と「戦地に行くこと」が交換条件。
 しかし、将来への希望をもって戦地へ出かけても、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になったりして、帰還後にさらなる貧困に陥るパターンも多い。
 大学の友だちにも軍の出身者がいた。ある日、学費を払うのがキツくなったからまた軍隊に戻ると言っていた。校内ではよく軍服を着た人がいて、イベントではリクルーターのブースも設置される。
 貧富の格差が広がっていると言われて久しい日本。将来、同じ道をたどるのだろうか。「子供の貧困」「女性の貧困」なんていう言葉も生まれ、奨学金未返済も大きな社会問題になっている。
 そんな中、いつか自衛隊が学生を支援する「貸費学生」という充実した奨学金制度が注目をあびるかもしれない。教育の機会と安定した生活を求めて、若者がすすんで自衛隊に入隊し、戦地に行く日がくるのかもしれない。
 日本はいま、安全保障法案をめぐって大きな議論が巻き起こっている。この法案が成立すれば、自衛隊の活動範囲は広がり、リスクも高まるかもしれない。
 自衛隊への志願者が減少しているいま、少子高齢化のいま、これからどうやって自衛隊員を確保するのだろうか。アメリカのように学費に困った若者や、生活苦の人たちの大きな受け皿にはなってほしくないと思う。【中西奈緒】

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