呼子イカのブースで試食する参加者
呼子イカのブースで試食する参加者
 日本食卸売業の共同貿易(山本耕生社長)は、業界関係者を対象にした食品見本市「日本食とレストランエキスポ」を10日、パサデナのコンベンションセンターで開催した。国内外から130業者、約2400人の来場者数はともに過去最高を記録し、世界に広まりを見せる日本食への関心の高さを物語った。参加者はビジネスチャンスを逃すまいと、商品の売り込みや商談に熱を入れ、各種セミナーに聴き入った。

 和食は2013年のユネスコの世界文化遺産入りを追い風に、認知度をさらに高め波に乗る。日本の農水省の7月の調査では、世界の和食店の数は2013年1月から1・6倍増と急速に伸びており約8万8650店。北米には1・5倍増の約2万5100店、最多のアジアは1・7倍増の約4万5300店、欧州では1・9倍増の約1万550店と世界に広がる。

ブースで商談をまとめる参加者
ブースで商談をまとめる参加者
 山本社長は、和食店の店舗数の増加について、ラーメン店や焼き鳥店、居酒屋など「和食の大衆化」が一段と進んできている中で、最近では高級店のオープンが増え「日本食市場は『二極化』しながら大きく広がっている」と説く。また、最近のラーメン人気は「一時のブームではなく、ラーメン文化として定着し、日本食の底辺の拡大につながるだろう」と予測する。一方「高級レストランも日本からの進出が増え、こうした本物の和食が増えていけば、日本食のクオリティーが向上して、さらなる日本食の発展につながる」と期待する。こうした背景からエキスポでは、前年比で約200人増の参加が見られた。山本社長は「日本食は健康に加え、これからはクオリティー、おいしさが求められる時代が来る」と力説し、大衆化と同時に高級化にも継続して力を注ぐと言い、同社が進めるこの二極化により「日本食の人気は、さらに引き上げられるだろう」と期待を寄せる。
 共同貿易は、日本食のトレンドの紹介や啓蒙、教育にも力を注ぐ。「ラーメンは、レシピや調理方法をラーメン教室を開き教えている。ロサンゼルスに加え、デンバー、シアトル、ヒューストンなどの他州にも赴きラーメン文化の普及にもあたっている」(山本社長)。よりおいしい食材を求めて日本各地で探し、今回のエキスポでは、その中から高知の大トロマグロ、佐賀県呼子の剣先イカ、長崎のハーブ鯛・鯖が紹介された。これらは、セ氏65度という超低温で冷凍されているので、うま味が細胞に閉じこめられており、試食では高い評価を受けていた。
 同社の顧客でカンザス州ウィチタから参加した南原英夫さんは、鉄板焼(140席)とすし(50席)を組み合わせた和食店「SUMO by Nambara」を15年間営む。地方部での和食店経営は都市部に比べ「競争相手が少ないので、地方はかえって強い」と説明。すしの食材の調達は、地方の難点だった空輸に頼ることもあったが「(冷凍技術の向上により)今は仕入れに問題はなく、いいネタがいつでも揃う」と話す。同州ではここ10年で、すし店が増え続けているとし「地方には、すしのビジネスチャンスがある」と力をこめる。地元の和食店経営者は中韓系とベトナム系が大部分を占め、希少な日本人が他と差を着けるには「お客さんのニーズに応え、高い品質と、高いサービスを保つことが大事」と強調した。
地酒、焼酎、地ビールのブースは多くの試飲者で賑わった
地酒、焼酎、地ビールのブースは多くの試飲者で賑わった
 エキスポに初参加した佐賀玄海漁業協同組合・専務理事の立野弘幸さんは「呼子イカ」を紹介した。水揚げされたばかりの剣先イカを生きたまま加工し、超冷却することで、鮮度を飛躍的に高めた。解凍すると透き通った身が現れ、試食した人からは「甘くて、おいしい」「生イカではないのか」「こんなおいしいイカは、アメリカにはない」などと、好評を得たという。最もおいしい食べ方の刺し身のほか「げそはバター、しょうゆ焼きにしてもおいしい」と勧めた。あるすし店店主は「これからは、このイカだけを使う」と即決したといい、立野さんは「反応がよく、注文がバンバン(約20件)来た。食べてもらって初めて呼子イカのおいしさが分かってもらえた」と手応えをつかんだ様子で「LAは日本食がブームなので、イカだけでなく、他のいろんな魚も売り込みたい」と抱負を述べた。
 共同貿易の金井紀年会長は、この日の盛況を見て「普及に60年掛った」と、しみじみと語った。純和食から始まった紹介は、健康食と認められ、すしブームでは生魚を食べる文化が市民権を得た。他国の食文化に溶け込み、フュージョン食として形を変えつつも、同社は動向を先見しながら、時代の流れに対応している。日本食の定着について金井会長は「ただ儲けることだけでなく、文化として根付かせなければならない」と持論を述べ「大量に安く売って利益を得るのでは、食文化を壊すだけ」と警鐘を鳴らす。レストランオーナーなど業者に対しては「食材にこだわりを持って品質を追求し、文化を守ってもらいたい」と願い、セミナーでの啓蒙の重要性を強調する。
 同社は海外にも力を入れており、山本社長は「近隣のカナダ、メキシコから南米はペルー、チリ、ブラジルなどの各国、また、ニューヨークでも欧州各国の他、ロシア、中近東など輸出先は合計40カ国に上る。『日本の味を世界の人々に』のモットーのもとに日本食市場の拡大に努めている」と話す。金井会長は「日本食は、無限に広がる可能性を持っている」と強調し、信念の正攻法の商法を貫き世界の市場を拓く。【永田潤、写真も】
盛況を極めた共同貿易の「日本食とレストランエキスポ」
盛況を極めた共同貿易の「日本食とレストランエキスポ」

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