「二兎を追う者は一兎をも得ず」といわれ、プロ野球界も疑うことはなかっただろう。その通説を覆した驚異の選手がいる。投手と野手を兼任する日本ハムの大谷だ。
 「二刀流」と絶賛されるだけあって、切れ味は両刀とも極めて鋭い。今季は、史上初めて投手と指名打者の2部門でベストナインに選ばれた。その上にMVPにも輝き、弱冠22歳で球史に名を刻んだ。
 103マイルもの豪速球を投げ、かつホームランを量産する。「マンガの世界から飛び出したような…」などと、例えられる。だが、マンガやドラマでも、そんな筋書きを書いた作家は、かつていただろうか。
 高校時代から公言し、夢見ていた大リーグ。来季オフ以降の挑戦が先日、球団に認められた。
 米球界は騒ぎ、監督そして、スカウトの1人は「アメリカの野球を変える可能性を持つ」などと、興奮気味に二刀流の起用を示唆する。実際は、登板間隔が日本と違い、中4日と短いため、投打の両立は難しいとされるが、ファンは心を躍らせ、本人は冷静で控え目に話しているが、同感だろう。
 二刀流は元々、大小の刀を駆使して戦うこととされるが、大谷の場合は強靭な右腕と、長打力を併せ持つので、2本のでっかい刀を豪快に振り回すサムライを見れば、アメリカ人はさぞ喜ぶこと間違いなし。われわれ在米邦人の鼻は、ぐんぐん高くなるだろう。
 性格がとてもよく、好成績を挙げもおごらず、今季の自己採点は「60点ぐらい」と厳しい。米移籍について問われても、チームのためにもう1回日本一を狙って頑張る、と至って謙虚。収入は毎年数億円を手にし、若くして億万長者になったが、その暮しぶりは極めて質素という。寮に住み、月1万円ほどの生活費というから、驚くことばかり。
 来春のワールド・ベースボール・クラシックでは、中軸としてチームを引っ張ることだろう。日本代表が予選を突破する前提だが、地元ドジャー球場で勇姿を披露する。投げて、打って、光り輝くスーパースターの活躍が、今から楽しみでならない。みなさんもぜひ拝みに行ってもらいたい。【永田 潤】

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