ハワイの火山噴火、日本では地震、豪雨など自然災害が続いて、安否確認にやきもきしている。そして時期は、七夕祭りや二世週日本祭を控えて賑やかになってきて、気持ちをどこに持っていったらいいやら。
 6月23日は沖縄慰霊の日。平成最後の慰霊祭が行われた。その一週間後の7月1日、ガーデナ市のケン・中岡センターで沖縄系帰米2世の比嘉太郎についての講演会があった。講演したのは、ノンフィクション作家の下嶋哲朗氏で、彼は太平洋戦争時の沖縄戦の惨状、その後の救済活動、沖縄出身の帰米二世らに焦点を当てた執筆活動を行っている。
 2005年にLAで上演された「海から豚がやってきた」というミュージカルをご記憶の方もおられるだろう。戦後の沖縄を復興させるために、豚を送ろうと奔走努力した実話を基にした物語。今、沖縄にいる豚は、この送られた豚の子孫である。生きている豚をアメリカから沖縄に送る、壮大なプロジェクトを考え出した比嘉太郎、豚がどれほど大事な食べ物であるか、沖縄を知り尽くしていたからの発想。資金集めから豚の調達、輸送にかかる船の手配、無事に沖縄まで届けられるか不安な情勢の中で、幾多の困難を乗り越えて実現させる。
 沖縄を救おうと一粒の種子を蒔いた比嘉太郎、それが歴史的確執を超えて沖縄救済運動に発展していく。この運動が起きなかったら、沖縄の復興は遅れていたことだろう。この種子を拾い上げて、花咲かせた物語を丹念に調べ上げて、後世に伝え残そうと、下嶋氏は情報を求めている。
 戦中戦後の混乱した時期に、日米で必死に命を守ろう、生活を立て直そうと立ち上がった人たちがいなかったら、今のこの豊かさはなかっただろう。戦いの惨状を目の当たりにして、生きる気力も失せようという悲惨な状況からの脱却に前向きになれる人間の偉大さを伝えることの大切さ。それを、実践する下嶋氏。
 沖縄慰霊の日に、小東京で上演された「Nihonmachi」もまた、日系人の苦労と葛藤の物語。この物語の主人公は、豪雨の被災地にとりあえず調達した下着や靴下を持って駆け付けている。これもまた一つの種子だと思った。【大石克子】

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