ベランダに並べたさまざまな植木鉢、その中に引越し時に持ってきたスダチの鉢がある。ある朝、その葉に白と黒のまだらの虫を見つけた。この木にはよくアゲハの幼虫がくるのだが…と思っていたら、すぐにそれは青虫に変わった。ああ、見覚えがある。アゲハ蝶の幼虫だ。
 それにしてもよく見つけるものだ。何しろこの木へアゲハがくるのは4度目。まあよい、わが家にとっては貴重なお客さんだ。スダチの葉を食い尽くされても、こうして狭い我家のベランダに訪れてくれるのが有難い。
 それからは毎朝、まだ元気でいるかな?とのぞくのが日課になった。オープンなベランダなので、生垣の内側とはいえ鳥は自由にやってくる。見つかったらひとたまりもない。「見つかるなよ。元気でいろよ」と毎日声をかける。新型コロナウイルス感染が騒がれるこの時期、友人・知人にも会えず、外食も遠慮して出掛けない。近所の買い物と散歩が唯一の運動だ。親戚も友人も自宅に招くのははばかられるので、この青虫はわが家の貴重なお客さんなのだ。
 そんなある日、そろそろだなと丸々と太った青虫を見て、段ボールに鉢ごと網をかけて室内に入れた。2〜3日経った頃、青虫の姿が消えた。「きっと蛹になったんだよ」と方々探したが分からない。がっかりするカミさんを「やがてどこからかきっと蝶になって出てくるよ」と慰める。
 10日ほど過ぎて諦めかけた頃、ベランダへのカーテンを開けた奥に動くものを発見! いつものアゲハ蝶だ。「こんな所に居たの」とカミさんが話しかけている。すぐに何枚も写真を撮りベランダに誘導して放してやった。
 アゲハはちょっと戸惑い、すぐ外の生垣に止まった。いったん道路の方へと姿を消したが名残を惜しむかのようにベランダへ戻ってきて周りを一周、やがて意を決したように大空へと翔び立って行った。
 蝶の命は短い。これから1週間も生きられるのだろうか。何とか良き伴侶に出会い、来年のために子孫を残せよと祈りつつ、自然の生命力の力強さに感動を覚えた。われらもこのコロナの苦境を耐えよう、と希望が湧いた。有難うアゲハ!【若尾龍彦】

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