鹿児島の港から高速船で60キロ程南西に行くと、九州最高峰の宮之浦岳を有し、切り立つ山々を緑に彩る原生林に、月間35日雨が降ると言われるほど水の多い島である屋久島に到着します。そして世界遺産にも指定された豊かな自然の恩恵を受けてのことか、自然エネルギー後進国と言われる日本の中において、ほぼ100%の電力が水力などの自然エネルギーでまかなわれている島でもあります。
 慣れない登山靴で踏み歩くトロッコ道の途中には、小杉谷の小学校や公民館の跡があり、かつての子供達のはしゃぐ声が聞こえてくるようでした。トロッコ道を終える所からは厳しい登り道が続きます。そのご褒美なのか、樹齢約三千年の巨大な切り株であるウイルソン株が頭を出します。米国の植物学者であるアーネスト・ウィルソンによって、この島は世界に知られるようになります。株の中に入ると、静けさが恐ろしいほどの神々しさを感じました。
 そこからさらに進むと、いよいよ縄文杉が姿を現します。縄文杉は誰でも簡単に会えるわけではありません。往復十時間近くの山道を歩き続けて初めて出会うことができるのです。以前は近くまで行くことができたのですが、最近は自然保護の観点から後方に作ったデッキから縄文杉を見られるようになっていました。世界最高齢の植物ではないかとも言われている縄文杉は、七千年前の世界を知っているかもしれません。神々のすむ島に迷い込んだような不思議な感覚を覚えました。
 鎌倉から移住してきたというガイドさんは、コマドリの鳴き声を教え、ヒメシャラやヤマグルマの木々の特徴などを丁寧に説明してくれました。監獄の跡や強制労働、防空壕(ごう)などの歴史にも触れながら、足元に落ちている小さなゴミをさりげなく何度も拾っては自分のポケットに入れていました。自然に感謝する中で生かされていることを実感すると、ちっぽけな事に心を動かす必要などないのだと教えられます。杉の木は千年を超えて初めて大杉(屋久杉)と呼ばれるそうです。つまり千歳まではまだ小杉で一人前では無いのです。【朝倉巨瑞】

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