「コロナビールを飲んだら感染するって友達が騒いでいたよ」。新型コロナウイルスの感染病が国内でも問題になり始めたころ、中学生の娘がこんな話をした。娘は、はなからその話を信じていなかったが、同級生らが大真面目に受け止めそれを広めるような行動に出ることを心配していた。
災害や世界を揺るがす一大事が起こると「デマや偽情報(ガセネタ)」が発生する。「コロナビール」のような話なら、当該企業には申し訳ないけれど、まだ笑うだけで済む。だが、広範囲の人を不安にさせたり間違った行動を取らせたりするような偽情報はいただけない。
母親グループのラインでこんな話が出た。地元の日系託児所に市側から「1人でも感染者が出たら1年間閉鎖」と連絡があったというのだ。理由は「園内の消毒を完了するのに1年程度かかるから」。子供を通わせている母親たちの不安や心配は膨れ上がった。
第三者の私は即座に疑問を感じた。この話が本当なら全部の託児所、幼稚園、小中高に同じ内容が示されているはずで、アジア系もしくは日系に対してのみこの知らせが送られたのであれば明らかなヘイトではないか。
園に問い合わせ確認すると、幸いなことにその事実はないとの回答を得た。ただ、消毒完了に一定期間必要との当局の見解には同意していた。
グループにこの回答を戻すと、発信元の女性は実際に聞いた話なのにと驚き「感染者を出さないようにとの思いから、園長が説明を少し誇張したのかもしれない」と推測した。配られた手紙の一部分をこの女性が読み誤っていたこともその後に判明。「伝言ゲーム」の最終に話がそっくり別物になるような現象を思わせた。
悪意を持って意図的に流されたデマとは違い「LA市内ではメーターにお金を入れなくても駐車できる」などは、人が善かれと思って発信してしまった偽の情報である。
まじめ、思いやりがある、責任感が強い、面倒見が良い、これらのポジティブな性格にそそっかしさが加わると偽情報の流出が往々にして起こる。
不安の多い時だからこそ安易に転送せず、冷静に対処したい。【麻生美重】