田舎で1人暮らしをする母は、地元紙の「読者文芸」欄へエッセーや詩を投稿するのを日々の楽しみにしている。そんな母の元へ、昨年の夏頃、手製の詩集が送られてきた。母の書く詩に共感したという読者が、掲載された詩を集め、まとめてくれたのだ。
 最近、2冊目が届いたらしく、美しい布の表紙にタイトルまでついた2冊を画像に納め、私と姉に送ってきた。照れくさいのとうれしいのとが混ざっている様子がLINEのメッセージから伝わった。
 詩といえば、先日の大統領就任式で詩の朗読を披露したアマンダ・ゴーマンさん。あの5分半の間、彼女は文字通り輝いていた。明るい黄色のコートに真紅の髪飾り、髪には金色のアクセントが光っており、スタイリッシュそのもの。ゴーマンさんから放たれる言葉は、私を含む観衆をグイグイ引き込んでいった。
 詩のタイトルは「The Hill We Climb(私たちが上る丘)」。10代にも思えるほど初々しいのに、どっしりと自信に満ち溢れ、身振り手振りで圧倒的なパフォーマンスを繰り広げた。詩の朗読により心を動かされ、目頭が熱くなる経験は初めてだった。
 バイデン大統領やオバマ元大統領から声を掛けられながら退場するゴーマンさんをテレビの画面上で見送った。即座に検索エンジンを開き、彼女が何者なのかを調べ始めたのは私だけではなかったはず。サンタモニカの私立高校からハーバード大学へ進学し、昨年卒業した22歳。今回の大役は、ジル・バイデン夫人による抜擢とも報道されていた。ゴーマンさんのツイッターのフォロワーは一気に30万人増えたとされ、出版予定の3冊の著書は、それぞれ100万部刷られるという。
 詩は生活の中にあふれているのに触れ合う機会は少ない。けれども、一度、詩が目の前に現れ琴線に触れると、その個人の人生や、さらには社会にまで大きな影響を与えることがある。ホメロス、リルケ、杜甫、みすず、ホイットマンなど、数多くの詩人の作品がそれを証明している。
 これを書いている最中、長女の詩が加州のコンクールで受賞したとの連絡が入った。母の血が1世代飛んで引き継がれたようだ。【麻生美重】

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