私が渡米したのは1981年の春、渡米前にはいろいろと米国生活の注意事項を聞かされた。その中に「政治の話や宗教の立ち入った話はするな」という忠告があった。一方、「ジョークを上手に使うと人との付き合いで役立つよ。欧米ではウィット・ジョークは会話の潤滑油だから」というアドバイスがあった。
 ある日、ダウンタウンに出て2人で歩道を歩いていると、向こうから2人連れのアメリカ人の男性がやってきた。よくあることだが、こちらが左に寄ると向こうも同じ方向へ、右に寄ると相手も右に寄る。顔を見合わせて双方が立ち止まってしまった。相手の1人がニッコリと笑い「シャルウィダンス?」と片手を腰にもう一方の手を目の高さに出して軽く会釈をした。私はとっさに「やられたあ!」と思った。双方は大笑いになって手を振り合って別れた。爽やかな感情が込み上げてきた。そうか、これがジョークの効用。それにしてもあのジョークがとっさに出るとはと感心した。その頃、日本でも「Shall We Dance!」という映画がはやっていたので心に響いた。
 慣れてくると、親しいアメリカ人との会話では政治の話も宗教の話も遠慮なく話せた。こちらが真剣に論理に沿って話せば常に真剣に聞いてくれた。
 アメリカのオフィスでは受付がある。上司に会うときは必ずアポイントメントが必要だ。電話をすると受付嬢が出る。「ボスはいるかい?」と聞き、「ところで君はまだ働いているの? 今日は金曜日だよ、もう4時だ。Why don’t you go home!」などというと、一気に親密度が加わり、フランクに話せる。大いに活用した思い出がある。
 要人のスピーチでも冗句で聴衆の関心を引きつけ、一気に自分の味方につける政治家などがいる。英国のチャーチル首相、エリザベス女王、米国のケネディ大統領など、いまだに語り草になっている。日本の政治家を見ていて、この点では随分と損をしているなと感じるこの頃である。
 人ごとではない。自分も磨かなくてはね。(若尾龍彦)

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