
11月の「大和楽USA」創立25周年記念公演を前に米国で活動する長唄の唄方の渡部まり子さんが3回にわたり、大和楽について紹介する。
ロサンゼルスでは、民謡・長唄・大和楽が同じ舞台で演奏されることが多く、「何が違うの?」と感じられる方も少なくありません。実は、これらの違いを知ることで、日本音楽の奥深い魅力や背景がより明確に見えてくるのです。
民謡と古典音楽の違いは何でしょう。まずその成り立ちを見ると、民謡は、民衆が自然に生み出した「生活の唄」です。田植や盆踊り、労働歌として生まれ、短い旋律が特徴です。地域ごとに少しずつ姿を変えながら受け継がれてきました。親しみやすさと素朴な味わいが最大の魅力です。
一方、歌舞伎音楽(長唄、清元、義太夫、常磐津など)や、比較的新しい大和楽は「舞台芸術」として発展した古典音楽です。江戸時代から音楽家たちが磨き上げてきた様式で、舞踊や芝居と結びつきながら、芸術性の高い作品として育まれました。曲の長さも5分ほどの小品から、60分超の大作までと多様です。高度な技術と深い表現力が求められます。芸術表現の中に四季のうつろい、人の心の機微、日本独自の美意識が込められ、聴く人の心を揺さぶります。歌や音に込められた想いに耳を傾けることで、日本文化の奥行きと広がりを感じられるでしょう。
中でも大和楽は、皆さんにとって耳慣れないジャンルかもしれません。大和楽は、歌舞伎に根差す三味線音楽に、ハミングやハーモニー、輪唱といった洋楽技術を融合させた革新的な音楽で、1933年に東京のホテルオークラで有名な大倉喜七郎男爵が創設しました。長唄は男性の唄が多いのに対し、大和楽は女性の声の繊細さや優雅さを描き出す音楽として磨かれてきました。
いずれの古典音楽も師匠から弟子へと厳格に伝えられる「芸道」の世界。伝承の積み重ねが、古典芸能の深みを支えているのです。ここロサンゼルスでは11月2日に、日本から大和楽の3代目家元・大和櫻笙氏や鳴り物堅田流の家元・四世堅田喜三久氏ら5人のプロの演奏家を迎えて演奏会が行われます。古典邦楽の最高峰の演奏が聴けるまたとない機会となるでしょう。
そして、このコンサートには大和楽USAの名取など総勢50人以上が出演します。次回は、日本から遠く離れた海外で日本の音楽を伝承してきたロサンゼルス邦楽界の歩みと、受け継がれる音のこころをご紹介いたします。(第2回に続く)

渡部まり子 1973年に渡米し、77年まで長唄の唄方として舞台活動に従事。ベルギー在住を経て81年に米国で「麻里ふじ会」を立ち上げ、日本舞踊の普及および長唄・舞踊の地方(じかた)としての活動を続ける。ロサンゼルスおよびニューヨークを中心に、大和杏笙(大和楽)、堅田喜巳扇(囃子)、杵屋吉藤次(長唄)、坂東麻里ふじ(日本舞踊)として、伝統芸能の継承と発信に努めている。YouTubeで自作の番組「お囃子塾」(日英語)を100本以上制作。
