カーテンコールで感謝を述べる坂東秀十美(前列左)と師匠の坂東秀子(同右)

 ロサンゼルスを拠点に活動する日本舞踊家、坂東秀十美が1月17日、小東京のアラタニ劇場で日本舞踊会「優美(ゆうび)」を開催した。本公演は秀十美が30年にわたりロサンゼルスで積み重ねてきた指導・創作・普及活動の集大成として企画されたもの。古典舞踊を軸に、情緒豊かな所作や緩急ある構成で、日本舞踊の本質を鮮やかに示した。 (長井智子、写真も)

荻江節「鐘の岬」を踊る会主・坂東秀十美

歌舞伎舞踊から群舞まで
幅広い演目で美を伝え

 本公演「優美」は、12演目それぞれが独立しながらも、日本舞踊そのものが持つ美しさを全体で伝える構成となった。出演は秀十美と、秀十美の師で日本から訪米して特別出演した坂東秀子、名取披露となった新名取を含む秀十美門下の名取、そして子どもを含む多くの弟子が舞台に上がり、伝統の歌舞伎舞踊からオリジナルの振り付けの群舞まで、幅広い演目を披露した。日本の専門家を呼んで準備した舞台美術や照明との調和、本格衣装も印象的で、すそさばきや扇の使い方一つ一つに磨き上げられた美意識が宿り、客席からは随所で感嘆の声が漏れた。
 秀十美は、日本舞踊を「エレガンスとグレースを体現する芸能」と捉え、その本質的な美を観客に自然に感じてもらうことを目指したという。自身の中にある日本舞踊観を舞台全体に反映させた結果が、「優美」という題名に集約されている。
 演目選びでは観客が楽しめることを意識しながらも、特に重視したのは弟子一人ひとりの個性だったという。名披露目を迎えた弟子たちについては、気持ちよく踊れること、同時に学びのある演目であることを基準に選定。踊り手が持つ魅力を最大限に引き出すことが、公演全体の完成度につながると考えた。新名取は4人で、中富・ステファニー・あきこと坂東秀亜清(ひであきよ)は長唄「汐汲」、南出・アリー・真由美こと坂東秀札美(ひでれいみ)は長唄「八島官女」、パーハム・ローラン・美奈子こと坂東秀静美(ひでしずみ)と増井来波こと坂東秀慶波(ひでよしな)は長唄「連獅子」で親獅子・子獅子を熱演した。

長唄「汐汲」を踊る新名取の坂東秀亜清

高い完成度の総合芸術
日本から裏方14人招き

 舞台づくりにおいて強調されたのは、日本舞踊が踊り手だけで成立する芸術ではないという点である。化粧、衣装、かつら、大道具、舞台背景、照明まで含めた総合芸術としての完成度が「優美」を生む。そのため、日本舞踊の舞台を熟知したスタッフを日本から招き、色使いや照明など細部にまでこだわった。舞台背景の塗料の色が米国の調色機(既存の塗料を混合して希望する新しい色を作り出すための装置)では再現できなかったという逸話は、日本舞踊や歌舞伎に特有の色彩感覚を象徴するものだ。
 舞台運営では、日本と米国双方の事情を理解する演出・舞台関係者が橋渡し役となり、現地スタッフと連携。大道具や進行、合図の役割分担が明確に整理され、多くの人の力が結集して舞台を支えた。

長唄「藤娘」を踊る川上・ソフィー・愛実さん

 楽屋での化粧、衣装、かつらの支度に加え、舞台上での補佐にも坂東流門下が日本から賛助出演した。連獅子における小道具としての蝶の操作や、坂東拡春美の踊った清元「お祭り」での威勢のいい若衆役など、後見(舞台上で踊り手を補助する役)やからみ(主役と絡む立ち回り役)においてもすきのない所作を見せた。
 こうした舞台づくりを支えるため、総勢14人が日本から訪米した。

弟子たちが努力し好演
次世代へ舞台づくり継承

 公演は4時間を超える長丁場だったが、終演後には「最後まで目が離せなかった」「とにかくきれいで楽しかった」「日本舞踊の印象が変わった」といった声が多く寄せられた。色彩や衣装、化粧の美しさに加え、弟子たちの努力が伝わったという感想も多く、日本舞踊になじみのなかった観客にも強い印象を残した。
 弟子指導について秀十美師は、日々の稽古で学んだことを舞台で「110%出し切る姿勢」を重視してきたと語る。自身が踊った「鐘の岬」は、結果的に「優美」を象徴する締めくくりとなり、日本舞踊が生涯学び続ける芸であることを改めて示した。今後は、支えてくれたコミュニティーへの感謝を基盤に、次世代へ舞台づくりの経験そのものを継承し、「続けていく」ことを最大の目標としている。

大和楽「花吹雪」を踊るジュリア・カーストンさん(左)とアームストロング・ソフィア・紅葉さん

秀十美師、多様な演出
12演目に思い込め

 それぞれに秀十美師の思いが込められた演目が並んだ。師匠である坂東秀子師が幕明けに踊った「富士」は霊峰富士に坂東流の発展への願いを込めた小曲。プログラムには「そのため大和屋の屋号が詠み込まれている」と記されている。十代目家元・坂東三津五郎が生前に制作・振り付けた曲だ。
 5人が芸者姿で新年を踊る長唄「新一つとや」(坂東拡三沙、梶川光枝、永澤珠美、西尾砂由美、ローミングみえこ)は、ロサンゼルスでの師である坂東三津拡の振り付けを忠実に再現したもので、まゆ玉を持ち踊る姿は正月文化の趣きを写実する。一方、大和楽「花吹雪」(アームストロング・ソフィア・紅葉、畠・サマンサ・ことみ、板谷理央、カーストン・ジュリア、コッパーズ・レイア・かずさ、マックギボニー・美亜子)の群舞は、夏の二世週祭のショーで秀十美が担当する女王候補たちの、より現代的な日舞を思い出させた。
 子どもたちの愛らしさが際立った長唄「花くらべ」(チャン・セイディー・りえ、リム日向多、スティーブンス桧、スー・コートニー・みえこ、田中・エマ・愛美)や清元「さくら」(中野グラント)など、日本の花鳥風月の美しさをうたう演目もあれば、2部の幕開けで舞われた長唄「豊」(坂東拡三沙)では、雰囲気を変えて墨絵のわびさびの世界を演出した。

長唄「八島官女」を踊る新名取の坂東秀礼美

最大の山場「連獅子」
毛振りで興奮の渦に

 さらに坂東流の持ち前である歌舞伎舞踊の極意は、藤の大木の背景と美術の美しさが圧倒的な長唄「藤娘」(川上ソフィー)や、江戸の祭り文化を描写した清元「お祭り」(拡春美)、新名取が披露した長唄「汐汲」(秀亜清)、長唄「八島官女」(秀札美)、長唄「連獅子」(秀静美、秀慶波)といった作品で大いに見せつけ、観客を魅了した。
 最大の山場となった「連獅子」は、2人の少女、川上・エリー・和都実さんとスティーブンス・杏佳さんが踊る初々しい「胡蝶」を間に挟んで、狂言師から、隈(くま)取りを施した獅子への早変わりが見せ場。大獅子と子獅子をそれぞれ演じた秀静美と秀慶波が見事な毛振りを演じると、興奮が会場に渦巻いた。

大和楽「花吹雪」では華麗な群舞を披露

秀十美の歩み祝う
師弟一体、舞台に刻む

 一転、フィナーレでは秀十美が荻江節「鐘の岬」(八代目坂東三津五郎振り付け)をつややかに踊り上げた。その優雅さは所作の隅々にまで行き渡り、衣装のすそさばきの一動にまで宿った。
 自身の舞はもちろん、門弟たちの踊りも冴え、師弟が一体となって築いてきた歳月の重みが舞台に刻まれた。観客が贈ったスタンディングオベーションや指笛、歓声と声援は、日本の古典芸能の舞台では珍しく、米国ならではの熱気を生んだ。
 異文化が交差するロサンゼルスで坂東秀十美の歩みを祝った「優美」は、本物の力、そして伝統芸能が国境を越えて息づく力を確かに示した。

幕開けに長唄「富士」を踊る坂東秀子

秀十美を預かり弟子に
秀子師、日本で指導授け
坂東流は「一つ一つの振りに意味」

 秀十美の師匠、坂東秀子師(68)は、九代目家元・坂東三津五郎の娘で、秀十美が小学生の頃から預かり弟子として日本で指導を授けてきた。本公演に当たって早くから来米し、下ざらいを含む稽古のサポートから本番までを見守った。生徒たちの稽古を全て確認したが、これは秀十美の行った初回公演の時から続く役割りである。幕開けの踊り長唄「富士」にも立ち、その後は終演まで裏方として支え続けたという。
 初めての出会いは、秀十美がまだ幼少のころ。訪米の際に秀十美を教えていた坂東三津拡師を通じて出会い、その後、預かる形で指導を引き継いだ。夏休みごとに日本で稽古をつけ、大学生になると日本へ留学させた。当時は海外からの日本留学がまだ珍しい時代だったが、日本で学ぶ意義を説き、秀十美も納得して来日したという。九代目家元・坂東三津五郎の下で約5年間生活し、かわいがられた。

長唄「花くらべ」を踊る子どもたち

 秀十美が海外生まれであることについて、秀子師は「外人だと思ったことはほとんどなかった」と振り返る。周囲は日本語だけの環境で、「父も非常にかわいがっていた」と言う。踊りの指導では、まず技術をしっかり身に付けさせることを重視し、日本滞在中に複数の舞台経験を積ませたことが、後の活動に大きく役立ったと語る。
 故・三津拡師については、英語を話せないながらも米国で教えを広め、多くの名取を育てた努力家で、基礎指導に優れた師匠だったと回顧する。
 秀十美の現在の姿に対し、秀子師は「うれしい、の一言」と述べ、「技術ではまだ私を超えていないけれど、師匠としてはもう超えた」と、秀十美の成長について冗談交じりにたたえる。多くの弟子を抱え、教え続けている姿勢そのものが、踊り手としての力を示していると言う。日本舞踊は生涯学び続ける芸であり、その覚悟と意欲を持ち続けている点を高く評価した。

長唄「連獅子」の一幕で胡蝶を踊るスティーブンス・杏佳さん(左)と川上・エリー・和都実さん

 また、弟子たちが自分のものとして踊っていたことは「印象的だ」と述べた。日本に比べ舞台経験は少ないものの、楽しみながら踊る姿があり、舞台に立つ上で最も大切な要素が備わっていたと感じたと話した。名取披露の意義も、伝統を次世代へつなぐための重要な節目だと強調した。
 坂東流の踊りの核心は、「一つ一つの振りに意味がある」こと。歌舞伎とともに育まれてきたこの考え方を大切にし、意味を理解した上で踊ることを、弟子として守り続けてほしいと強く願っている。教えたものが生き続け、誰かが細くても継いでくれることが、日本人として何よりの喜びだと話した。

坂東三津拡の振り付けを再現した長唄「新一つとや」
長唄「連獅子」を踊る坂東秀慶波(写真左)と秀静美(同右)
日本舞踊会「優美」公演を成功に導いた坂東秀十美(前列左から3人目)と出演者(写真提供=トーヨー・ミヤタケ・スタジオ)

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