「私にとっての茶道の魅力とは、『未完成(不完全)の美』。茶道に100点はないの。一から十まで学んだら、また一に戻り新たに学び直す。常に足りない部分を補いながら学び続ける姿勢が、大切なのよ」—
先日、茶道裏千家今日庵参事の松本宗静さんが、国内外における茶道文化の普及・発展に顕著な功績を収めた人に贈られる「茶道文化賞」を受賞。その模様を伺った。
日系、米系両社会で広く活動される松本さんとは、さまざまなイベントで顔を合わせる機会があったが、ゆっくりと話をするのはこれが初めてだった。
1951年のロサンゼルス支部発足時から淡交会を支える松本さんに、茶道が米国社会にこれだけ普及した理由を伺うと、「テクノロジーが発達した今だからこそ、常に自然と密接な関係を持つ茶道が注目されたのでしょう。毎日慌ただしい生活を送る人こそ、茶室に入って心を落ちつかせ、松風(釜の湯が煮える音)を聞きながら心を無にし、『和敬清寂』の精神に触れることが求められているのでしょう」と解いた。
テーブルを挟んで向かいに座る松本さんの、とても小柄でありながら、人を瞬時に引きつける優しい笑み、全身から溢れるバイタリティー、そして決して忘れない謙遜と感謝の心に、即魅了された。
「茶道ではね、人と人、心と心、物と物、すべてとの出会いを大切に、常に感謝の気持ちをもつことを忘れないことが大切なのよ」
これら茶道の作法や精神は、茶道をたしなむ人に限ったことではなく、われわれ一人ひとりにも必要なことだと思う。忙しい毎日を過ごしているからこそ、ふと立ち止まり、周りの人にあらためて感謝の言葉を発することが大切なのではないだろうか。
90歳の松本さんは最後に、「私ね、ずいぶんと年だけど、茶道で指導すべき1000以上の作法はしっかりと頭に入っているのよ」。
茶目っ気たっぷりに微笑むその姿を拝見し、米国内に茶道が普及した一番の理由が分かった気がした。【中村良子】