先月、米国の連邦議会で医療保険改革法が可決され、オバマ大統領の署名を経て成立した。これによって先進諸国の中で唯一、国民皆保険制度がないとされるこの国も皆保険にむけ一大改革がスタートする。
今回成立した法律によって、米国民は2014年までに、原則として医療保険への加入が義務付けられ、そのため政府は今後10年間で9000億ドルの公的資金を投じ、中低所得層向けの支援拡充をはかるという。これは低所得者など、これまで医療保険に加入できなかった数千万人の米国民にとって福音だ。しかし高所得者への税負担の増加や投資収入への課税など、国はそのための財源確保がたいへんだ。さらに改革是非をめぐる議論の背景には、貧富の差や不法移民、妊娠中絶など、この国の社会問題が複雑に影を落としているようで、そう簡単な話ではないようだ。法律成立直後の世論調査では、今回の改革法を悪いと答えた人は40%にのぼっていた。
新聞記事によると、先の大統領選で共和党の副大統領候補でもあった、サラ・ペイリン氏(アラスカ州知事)などは声明を出し、「アメリカを愛する人たちにとって、この国が社会主義になるのは絶対に許せない」と怒り心頭なのだそうだ。「大きな政府」に反対する共和党は、この制度が国の支出を増大させ、増税につながるとして大反対なのだ。資本主義に徹し、社会主義を嫌う自由の大国らしい反応だ。
ところで、今回の改革法とは関係ない話だが、私は先日、数日間だが日本へ行ってきた。その際、私の手もとに日本の健康保険証がないのに気づき、もしかしたら私自身が紛失してしまったのかと心配になり、日本行きのついでに、私の本籍地がある区役所の相談窓口を訪れてみた。相談窓口で聞いたところ、「日本国籍の人でも外国に居住する場合、日本の住民票をお持ちでないので、健康保険証は発行できません。健康保険証は住民票にもとづき発行されるのです」といわれた。私の日本の健康保険証は二十数年前に日本を出たとき、住民票とともに役所に返上していたのだった。厳密には、日本も国民皆保険ではなかったのだとはじめて知った。【河合将介】