〈東京の調布市に仙川(せんがわ)という私鉄駅があって〉という書き出しに、次の3文のうちの一つをつけたしたいと思うが、つながった文として最も「落ち着きが悪い」のはどれだろう?
 ①〈この駅がここ数年のあいだに急速に乗降客数を増やしているという〉②〈2本の古い桜が枝を伸ばしている〉③〈その駅舎のレトロ風の造りが鉄道ファンのあいだで大きな話題となっている〉
 ②ではなかろうか。なぜなら、①と③が〈私鉄駅があって〉を受けて、ちゃんと〈駅〉の説明をしているのに対して、②は〈駅〉とは直接の関係がない〈桜〉を唐突に描写しているからだ。②から落ち着きの悪さを取り除くためには〈私鉄駅があって〉と〈2本の古い桜〉とを、たとえば〈その駅構内で〉だとか〈その駅前広場の片隅で〉だとかいった説明でつながなければならないはずだ。
 ②〈東京の調布市に仙川(せんがわ)という私鉄駅があって、2本の古い桜が枝を伸ばしている〉には問題あり—とするのは、これが朝日新聞の天声人語(2010年4月10日)の書き出しだったからだ。このように論理が一貫しない文を天声人語が書いているからだ。
 このコラムの文章を手本にして自らの日本語力を磨こうとしている人びとがまだ、日本全国に数多くいるに違いないのに、②はそれらの人びとの期待に応えきっていないのだ。
 論理がちゃんと通っていない文を書くのはもちろん朝日新聞だけではない。〈中国当局は、10日のチベット動乱50周年と合わせ、徹底した取り締まりと「愛国教育」を続けており、ラサ市では治安部隊による厳戒態勢が敷かれた〉という幼稚な文は時事通信にあったものだ(2009年3月14日)。
 ここでは〈「愛国教育」を続けており〉と〈戒厳態勢が敷かれた〉とのあいだに、たとえば〈その目的を果たすために〉というような字句がはさまれなければならないし、〈中国当局は〉という主語は〈戒厳態勢が敷かれた〉ではなく〈戒厳態勢を敷いた〉で受けるのが正しい。
 日本の報道機関が使う日本語はいま「問題だらけ」だ。報道機関の側にその自覚がないように見えることがまた怖い。【江口 敦】

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