ネコの目や女心のように、くるくる変わる移民法。
 アメリカはもともと移民で成り立ってきた国。だから、今になって移民を拒むのは道理に反するといった主張が聞かれる半面、国境をもっと厳しく管理して、不法入国者を撃退せよという意見も根強い。このため、移民法の細則は四六時中、右へ左へと揺れ動く。
 メキシコとの長い国境を持つアリゾナ州議会が4月、不法滞在者取り締まり強化を図る州法を可決。全米的に賛否両論が渦巻くなか、ブリューワー知事が署名し、裁判所から施行停止命令が出なければ7月29日に発効する。
 同法は、交通違反や他の犯罪捜査に当る警察官に、相手が不法滞在者であると疑える相当な理由がある場合、移民法上の身分を確認するよう求め、「不法滞在は犯罪に当たる」と明解だ。
 これに対し、こうした職務質問が人種差別、特にヒスパニック系に対する偏見になるというのが反対派の主張。
 例えば、不法滞在15年、その間にアメリカ市民権を持つ4人の子供を育ててきたある建築作業員は「もし自分が捕まり、強制送還されたら、誰が子供たちを食べさせていくのか」と訴える。法律や社会通念に背く人でも、自分の行為を正当化するわずかながらの理由を持っているという例で、「盗人にも三分の理」ということなのだろう。
 ブリューワー知事は今月3日、オバマ大統領と会談し「連邦政府が効果的な施策を講じないから、アリゾナ州独自で不法滞在者の取り締まりに当る」と説明。大統領は、恩赦を含めた包括的な移民法改革が必要との認識を示しつつも「州による取り締まりは連邦法に抵触する」との考え。
 連邦政府はこれまで何度か不法滞在者に恩赦を与えきたが、不思議なのは「不法入国、不法滞在者」のみが優遇されてきたこと。
 恩赦より先に、正規に永住権を申請している合法的滞在者のグリーンカード発効を優先すべきではないか。その後に、移民枠の余裕に応じて不法滞在者の恩赦を考慮するのが筋だろう。
 不法行為を棚に上げて、言い訳、主張を正当化する盗人猛々しさにも似た「声の大きさ」に惑わされてはならない。【石原 嵩】

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