「少年老い易く学成り難し」とは、異説もあるが、中国の思想家朱熹の言葉といわれ、「一寸の光陰軽んずべからず」とともに、私たちによく知られた言葉だ。この意味は、人間は誰でも若い時代は時の経過が早く、いつのまにか年をとってしまう。それに反して学業はなかなか成就しないものだ。わずかな時間でも無駄にしてはならない、ということだろう。私もシニア世代に達したいま、あらためてこの言葉をかみしめると同時に、最近は年齢の増加とともに過ぎ去る時間のスピードがますます増している気がしてならない。
そういえば19世紀フランスの心理学者ジャネーは「人間の心理的な時間は、その人の年齢の逆数に比例する」と主張したという。この説によると、例えば、10歳の子供にとって1年とは過去の全人生の10分の1だが、50歳の人にとって1年はそれまでの人生の50分の1となるので、その分時間の経過が早く感じられることになる。すなわち50歳での1年間は10歳の時の5分の1に相当し、これを「ジャネーの法則」と呼ぶのだそうだ。
時間は加齢にともない心理的には経過速度が増してゆくもののようだ。また別の学説によると、人間は年をとるにしたがって新陳代謝が弱まり、頭の中の時計がそれに合わせてゆっくりと回るようになるため、相対的に時が速く過ぎるように感ずるという説もあるのだそうだ。例えて言うなら、2台の自動車が高速道路を同じスピードで並んで走っている時、自分の乗っている車のスピードを落とすと、相手の車の方がスピードをあげたように感じるのと同じ理屈だ。
「少年が老い易い」なら私などシニア年齢者の老いへの進行など超特急並みということになり、1寸どころか1ミリの光陰も粗末にはできないのだ。私も老化にともなう体力の低下はやむを得ないとしても、なにごとにも好奇心を持ち、感動と実行をともなう日々を送るよう心がけることにしている。それにしても、お正月や遠足の日を待ちわびて指折り数えた遠い日のあの頃は、確かに一日一日は長かった。【河合将介】